短編U

□終章 〜未来の形〜(P2)
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■ 注 意 ■
はっきりとは書いていませんが、単行本未収録(第102話以降)分のネタバレを含んでいます。




終章 〜未来の形〜
たとえばこんなエピローグ



 ノックもなしであけた病室。
「鋼の?」
 室内に踏み込んですぐ、クリーム色のカーテンの向こうから声をかけられた。
「よくオレだってわかったな」
 声をかけながら薄い布をめくってベッド脇に寄ると、その人は顔を窓に向けたままでやんわりと微笑んだ。
「私が君の足音を間違えるとでも?」
 誇らしげな気配をにじませる声に苦笑のみを返す。
「具合は?」
「退屈極まりないね」
 入院というよりは軟禁ね、表向きは警護のためってことになっているけれど。
 と、ホークアイ中尉は言ってた。要はこれ以上何かしでかさないよう、逃げられないよう、閉じ込めておけ、ってことだろう。
「あの時の答えを聞かせてくれにきたのかね?」
「あんたさ、中央に未練、ある?」
 相手が期待する答えどころか、質問に対する答えですらないことを口にする。
「まさか、はぐらかすつもりじゃないだろうね」
 顔ごとこちらを振り向いたけれど、微妙に視線があっていない。そのことがなぜかすごく悔しかった。
  



 文字通り国そのものを舞台として始まったオレ達の死闘。
 誰かが大きく吐き出した息が、その闘いの終止符だったように思う。
「鋼の」
 掠れた声に呼ばれて振り向けば、手袋をはめた手が伸ばされていた。
 煤に汚れ、切り裂かれ、錬成陣は血に(まみ)れた手袋に鋼の右手を預ける。
 と、不意に力強く引かれバランスを崩したところを抱きとめられた。
「なにしやがるっ」
「……無事か?」
 身体に回された腕が確かめるように背中を叩く。パタパタと身体のあちこちを叩いていた手は、最終的にオレの顔を左右から挟んだ。
 こんなときだというのに顔が熱くなる。たぶん、赤くなってる。
「怪我はしていないか?」
 覗き込むようにして問われ、そんな必要ないというのに、視線をそらした。
「かすり傷程度がいくつか」
 ぶっきらぼうな言い方になったが、相手は安堵したように大きく息を吐いた。
「そうか。良かった」
「あんたこそ平気かよ」
「あまり出番がなかったのでね」
 動きようのなかった状況を、茶化すように言う。
「すべてが終わったらキミに告げようとずっと思っていた」
 ふいに声色が変わった。
 今を逃すと次にいつチャンスがくるかわからないから、と前置きをして。
「一緒に暮らさないか」
 あまりにも真面目な口調と、真剣な声にオレは何も言えなかった。


 

 視界の隅で窓にかけられたカーテンがふわりと風にそよぐ。
「はぐらかすつもりはねぇよ」
 はぐらかされてくれるようなアンタじゃないだろうし。
「返事をする前にアンタの真意を聞きたくてね」
「私が洒落や冗談で言ったとでも?」
 傷ついたような表情は、作られたものではなかった。
「思いつきで言ったんじゃないってのはわかってるけどな」
 別にオレだって、からかわれてるだなんて思ってるわけじゃない。
 ただ……
「オレは何かの変わりなんてなれない」
 はじめからほぼ捨て身のオレはともかく、この戦いで大佐が失ったものは多い。
 恐らくは、何もかも失くした、と言ってもいいくらいだと思う。
「失ったもののかわりなど、君に求めていない」
 静かな。
「ただ、私がキミを欲しているだけだ」
 それでいて熱い口調に覚悟が決まる。
「動けるか?」
 前に中尉から聞いたとおりなら。
「身体に不都合はないのでね」
 大佐がこのままここにいてもいい展開になんかなるわけがない。
「じゃ、行くぞ」
「君と共になら、どこへでも」
 言うが早いかベッドからするりと降りた男は、オレの肩に手を置いた。
 その動作に躊躇いや疑いは、かけらもなかった。 




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