短編U
□きみなき世界(P2)
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食事を終えて店を出て、宿まで送ろうという私の言葉をエドワードは一旦は否定した。
「女の子じゃあるまいし……」
「私が君といたいんだ」
一緒にいられる時間は貴重だから僅かな時間でも無駄にしたくない、と口調の裏に懇願をにじませれば、しかたねぇな、と同行を許可してくれる。
ふい、と逸らせた横顔に浮かんでいるのが面映そうな照れた笑顔なのは、私の思い違いではないだろう。
その証拠に、弟や私の部下達と歩くときよりもそのスピードは緩やかだ。
食事の時と同じような他愛ない会話。
錬金術の話しでも軍の事でもない、そんな平々凡々な会話ができることが、こんなふうな時間をエドワードと過ごせるようになったことが、たとえようもなく嬉しい。
宿の近くにある公園に踏み込んだのは、どちらからともなくだった。
別れ難く思っているのが自分だけではない、と確認できるこんな些細な行動を、私がどれほど喜んでいるか、きっと誰にもわかりはしないだろう。
ところが、私のささやかな至福の時間はすぐに終わりを告げた。
若い女性に下卑た声をかけ、嫌がるのを無理やり連れていこうとするバカモノたちを正義感の強いエドワードが放っておけるわけがないからだ。
もとより私とて、街の治安を預かる軍人の一人であるわけだから、見過ごすわけにもいかない。
怯えるだけの女性を保護しながら多人数とやりあうというのは、思ったよりも難題だった。
刃物を持ち出した相手から女性を背に庇う。振りかぶってくるその刃と、取り上げようとして伸ばした手の間に飛び込んで来たのは、夜目にも輝く金髪。
続いて耳に届く呻き声。
「──っ!」
その瞬間、路地の空気は一瞬にして凍りついた。
いや、沸騰したのか。
「きさまらぁぁ─っ!」
私は庇うべき女性の存在も、自分の立場も忘れた。
「エドワードっ!!」
目の前の景色が白くぼやけ、瞼の内側に熱いものを感じる。
「エドーっ!!!!」
抱きしめた身体から流れた温かい液体が掌を濡らしていった───。