短編U

□前夜(P2)
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お題の台詞
「側で眠らせて…どんな場所でも良いから…」

 エド→ロイ




前夜


 戦いは最終局面を迎えていた。
 この場を勝利で押さえられれば、アメストリスは今後しばらく他国から手出しされることはないだろう。
 逆に、失敗すればこの戦場に投入されたほとんどの命が終焉(おわり)を向かえることになる。
 金色の長い髪を後頭部でひとつに結んだ国軍最年少の中佐は簡易机に頬杖をついたまま呟いた。
「英雄になれるかどうかは紙一重ってとこだな」
 他の将兵はすでに退出し、二人だけが取り残されたテント。
 恐らく大総統と同じくらいに有名な中将閣下は、本来なら許されない部下の言葉遣いを咎めるつもりなどない。
「すでに君は英雄と呼ばれるにふさわしい戦歴を挙げていると思うが?」
 今回の作戦のために北の戦線から呼び戻された鋼の錬金術師は、正面に座る昔馴染みの男を見る。
「おまけにアンタは随分前から英雄サマだしな」
 エドワードは視線をテーブルに置かれたままの地図に移した。
 先ほどのブリーフィングでなされた矢印の書き込みを目で追う。
「この作戦を無事に遂行できれば、君もご立派な英雄サマの仲間入りだ」
「そのあとどこで死んでも立派な墓に入れてもらえそうだな。アンタの墓所はとっくに決まってそうだけど」
 実際、数々の大きな戦いを乗り越えてきたロイ・マスタング中将は、現在一番大総統の椅子に近い位置にいるとされている。
 既にアメストリスの英雄と謳われるロイは、万一その椅子に座ることなく戦死したとしても、国営墓地で眠りに着くことは決定事項に等しい。
 エドワードの言葉を苦笑で受け止めたロイは、続いたエドワードの言葉にその細い目を見開いた。
「ここで手柄を立てといたら、アンタの隣に葬ってもらえるかな」
 作戦を遂行できなければ意味ないけど、とまるで冗談のように続けたけれど、その言葉が本気であることが伝わってくる。
「別に国葬なんかに興味はないけどな」
 二人並んで生きていくことなど当の昔に諦めた。
 エルリック兄弟が求める物を手にいれて、旅に終止符(ピリオド)を打った時、エドワードが選んだのは軍に残るという道だったけれど。
 だからといって、二人が手を携えて歩いていけるような道ではないから。
「戦死者を最小限に食い止められれば、国営墓地のスペースも大きく余るだろうな」
 そうすれば好きなところを選べる、と。エドワードと同じように冗談のベールに包んでロイも答えた。
 せめて死して後、二人並んで眠りにつけるのなら。
「そのためにはここで勝利を収め、生き残らなければならないが」
「勝てなけりゃ、ここで死ぬだけだしな」
 それならそれでいいかもしれないな、とエドワードは笑った。



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