□夜明け
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冷たい空気が体に触れてロイの意識は夢の世界から呼び戻される。
覚醒には程遠い厚いベール越しの現実で何かが動く気配があった。
だるい体に無理に力を入れて手を動かせば、隣にあるはずのぬくもりがない。
ドアの閉まる音が耳に届く。
驚いて目を開ければ昨夜脱ぎ散らかしたはずの二人分の衣類のうち、ロイの分だけが取り残されている。
慌てて起き上がると裸の胸が冷えた空気に粟立った。


ズボン履いてシャツをはおって寝室を出ると、廊下の奥にある屋根裏へと続くはしごがおろされているのが目に入る。
物置として利用されている屋根裏へ登れば、明かり取りの小さな窓を開けてそこに頬杖をつく人をみつけて安堵する。
「ここにいたのか」
声は届いているはずなのに、その後姿は少しも動かない。
「あまりびっくりさせないでくれないか」
ゆっくりと歩みよるとそっと後ろから抱きしめる。
寄せた頬は外の空気にさらされていてひんやりとしていた。
「風邪を引くぞ」
窓の外、遠くに見える山の端がほんのりと白くなっている。
時刻は夜明け前、空気が一番冷え込む時間だ。
風にあおられた金髪が頬をぺしんと叩いていく。
その毛先も冷たくて思わず身を振るわせる。
「あんたの方が先に風邪を引きそうだな」
確かにワイシャツ一枚では夜明けの寒風は身にしみる。
「そう思うなら君があたためてくれ」
抱きしめる腕に力を入れて、体温を分けてもらうかのように頬をすりよせた。
「夜明けが見たかったんだ」
視線は窓の外に向いたまま、そっと囁くような声は静謐な空気の中に融けていく。
二人の視線の先で空は紫紺から薄桃、そして光そのものの純白へのグラデーションを広げている。
ほんのりと明るんでいただけの山の端は、それ自体が発光しているかのように白く輝き、空の明るさに山は一層黒く沈む。
しかし、それはほんのわずかなひとときで、闇の残滓はまたたくまに拭い去られ山は緑を取り戻す。

この瞬間が見たかったんだ、と小さくエドワードは囁いた。
夜が終わればまた朝がくるように、出口のないトンネルがないように。いつかこんな生活にも終わりをつげる日がくることを信じて。

 
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夜明けの描写が書きたかっただけです。



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