□終=始
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「もう終わりにしよう」
その漆黒の瞳に映る自分を見るようにしてそう告げれば、アンタは僅かに唇の端をつり上げて。
「我々の間に何か終わりにするようなことがあったかね」
「アンタにはなくても、オレにはあるから」
きっと何を言ってもコイツの表情は変わらないから、せめて瞳の揺れを見逃さないように。
「? 鋼の?」
微かに怪訝そうな色が浮かぶのを認めて内心溜め息をつく。
やっぱりコイツは気付いていなかったのだ。
オレの視線の意味に。
何度も告げた言外の言葉に。
返された視線も、言葉も。
子供の戯れ言と受け流していただけ。

「もう、終わりにする」
もう一度宣言するようにわざとはっきりと。
「一体何のことかね? 何を終らせると?」
「アンタへの、オレの、想いを」
瞳はそらさずにことさら文節で区切って。

闇色の瞳が揺れた?
「それはどういう意味だね」
「そのまんまだよ」
アンタへの想いを抱えたままじゃ苦しいから。前へ進めなくなりそうだから。自分が弱くなりそうだから。
理由ならいくらでもある。だから。

「鋼の… 君は…」
薄い唇が空気を震わせる。
低くて耳に心地良い声が好きだった。アンタしか使わない呼び方が好きだった。じゃれあいのような、憎まれ口の叩きあいが楽しかった。
「…君は…本気で、私を…?」
黒い瞳がそらされる。
あぁ、やっぱり拒否されたか。
戯れ言だから相手をしてくれてただけ。大人の余裕で。
この瞳に侮蔑が浮かぶ前に目を反らそう。そう思った瞬間、オレの視線を捕えた漆黒の闇。
何もかも吸い込むような、その闇色が揺れてるのは何故?
「その想い…受け止めると言ったら?」
「?!」
「それでも『終わりにする』のかね?」
「……何を…言って…」
焔がちらつく黒い瞳がオレの目を覗き込む。
「君の言葉を、自分の都合の良いように解釈しないという努力はなかなか難しかったよ」
黒い瞳が力を込めてオレを見つめる。
「…マジかよ」
もっとマシな返事がしたかったのに。
口をついて出たのはそんな陳腐な言葉で。
そんなオレをアンタは見つめてて。
その瞳に自分の想いが形をつ変えてさらに膨れあがったことを知る。

終わりにするはずだった想いが新たに始まった。





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