短編

□視線の先 (P1)
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 エドワードが書類に向かう自分を凝視していたのには気付いていた。

 その瞳に浮かぶ感情ははひどく不確かで読み取りにくいものだったけれど、憎悪や嫌悪、敵意といったマイナス感情が含まれていないことははっきりしていて安堵していたのだが。
 
「アンタってさぁ」

 言葉を落とすその口調はなんだかとてもイヤそうで、少しだけ身構える。

 それきり続かない言葉に書類から顔を上げると視線がかみ合った。

 瞬間、顔ごと逸らして慌てて窓の外に向けられる金の瞳。
 横顔からはそこに浮かぶ感情を窺うことはできないが、純度の高い蜂蜜色の隙間から覗くその頬のラインはこわばっている。

「何かね?」

 手にしたままのペンからインクが垂れぬよう、神経質なほど注意してペン立てに挿す。
 仕上がった書類を汚さぬように、というよりは単なる時間かせぎだ。

 このまま無視してしまえばよかったのかもしれない。
 けれど、先ほどまでの視線の意味が、その言葉の後に続くものが、何なのか非常に気になった。


 今度はロイがエドワードを凝視する番だった。

 陽の光で染め上げたような金髪は、薄暗い室内でそれ自体が光る力があるように輝いている。
 その隙間から覗く白い頬は陶器のように滑らかで、この角度からは見えないが金の瞳は前を見つめるその力もあいまって陽射しそのものだ。

 決して外見に惹かれたわけではないが、太陽を具現化したような容姿は彼の魅力のひとつに他ならない。


 じっと見つめていると──というよりは、見惚れていたのだが──ちらりとこちらに投げられた視線とぶつかった。すぐにまた顔ごと逸らされたが。

 その瞬間、白皙の頬が朱に染まったのを黒い瞳は見逃さなかった。





「鋼の?」

 恐る恐る声をかけてみると、しぶしぶといった(てい)でこちらを振り向く。
 しかし、顔はロイに向けられているが、視線は机の上や青い軍服の胸のあたりをさまよって一向に目をあわせようとしない。

「何か私に言いたいことでも?」

 もう一度促すとちらりと一瞬だけ瞳が上がる。

「そうやって、真面目に仕事してると…」

 そこでまた言葉は途切れる。

 ちらり。

 またもや一瞬だけ上げられる視線。

 ぶつかる金と黒の瞳。

「…あんたって…」

 互いの視線の先には相手の瞳。

 言葉の続きを催促することも忘れてロイは金の瞳に見入る。
 魅入られる。




「……カッコイイのな」


 



真面目に仕事してるロイさんは見惚れるくらいカッコイイだろうなぁ、と思ってたらできた話。

2006/4/1
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