短編

□初生─accident─(P2)
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 エルリック兄弟が乗った中央行きの列車は途中の駅で止まってしまった。
 どこかの駅で事故があった関係でしばらく停車する、との説明からすでに二時間以上が経過し、窓の外に広がる景色には暮色も強い。
 よくあること、とのんびり構えていた乗客たちも別の移送手段を考えるなり、この街で一夜を明かすなり、現状打破すべく動き出している。
 ぼくたちはどうするんだろう?とかしょんと小さな音を立てて首をかしげたアルフォンスは、向かいの座席で二人がけの座席を占領して眠っている兄を見やる。
 アルフォンスの視線に気づいたわけではないだろうが、エドワードはもぞもぞと身じろぎをしてパチリと目を見開いた。
 東方司令部のマスタング大佐が「純度の高いハチミツ色」と称した黄金色の瞳が現れ、あたりをきょろきょろと見回す。
「なんだよ、まだ動いてないのかよ」
 状況が寝る前と変わっていないことに舌打ちをし、ちょっと聞いてくる、と軽い動きで起き上がると歩き出した。
 駅員に事情を聞くだけにしては遅い兄を探して駅のホームに下りたアルフォンスは、憲兵の胸倉を掴んで引き下げる兄と、割って入ろうとしてあたふたしている駅員の姿を見つけ慌てて駆け寄る。
「兄さん! 何やってるのさ!」
 大きな音を立てて近づいてくる鎧に駅員は逃げ腰になったが、その鎧は手際よく子供を捕獲し哀れな憲兵から引き剥がした。
「すいません、ウチの兄がご迷惑をおかけしまして」
 大きな身体を小さくして謝る弟に対して、小さな身体で大きな態度の兄は弟の腕の中からも憲兵に向かって指をつきつけ叫ぶ。
「すぐっつったらすぐだ!今すぐ連絡とれ!!」
 暴れる兄を放すことなく冷静に事情を訊ねる弟に、兄は支離滅裂な言葉を発するばかり。それでも懸命な弟はそこからいくつかな単語を拾い上げ、横で話を聞いていた駅員に説明を求め『イーストシティで大規模なテロが起きて軍のエライ人が大怪我をしたらしい』という事態を把握した。





 今すぐ飛んで帰ってその顔がみたい。
 そんなに慌ててどうしたんだ、と呆れてほしい。
 大丈夫だ、と笑って欲しい。
 気持ちばかりがあふれて声に言葉にならない。
 こんな気持ちは今まで知らなかった。
 この身を苛むような痛みなど、知らなかった。
 この怒りにも似たあせりはどこから来るのか。





 銀時計の威力か、はたまたよほど小さな国家錬金術師が恐ろしかったのか、憲兵は必死の形相でハンドルを握っている。
 猛スピードで走る車の後部座席でエドワードは胸の前で組んだ腕に力をいれてじっと座っている。
 ちくしょう…
 兄の口からこぼれた言葉にアルフォンスはそっと心の中だけでため息をついた。
 テロリストに対してなのか、自分に対してなのか、それともその言葉に意味はないのか。アルフォンスにはわからない。
 けれど、ひとつだけ確かなことは、こんなにも焦慮をにじませた兄を見るのは初めてだということだけだ。




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