短編
□相談─courtship─(P2)
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「なぁ、ちょっと相談があるんだけど」
ちょうど半年くらい前、夕日の差し込むロイの執務室でのことだ。
緊急かつ重大事件が起こっていないことは司令部に着いた時点で感じ取っている。自分の感覚が間違っていないことはリザやファルマンに肯定してもらえた。入室と同時に机上に書類が溜まっていないことも確認してからエドワードはおもむろに切り出した。
「私は『こども電話相談室』の相談員ではないのだがね」
片眉をあげながら部屋の主はそっけなく答えたが、闖入者はそんなロイに頓着せずに言葉を続けた。
「最近、オレちょっとヘンなんだよ」
視線は床に固定したまま。小さな声だがはっきりと。
相談という形はとっていたが、それは全て相手に聞かせるための言葉だったから。
ここでいいようにあしらわれてしまっては話しが終わってしまう。真剣な相談事なのだとわかってもらえなければ、先がない。計算や演技でなく緊張に指先が震えた。
「どこにいても、一人の人が気になるんだ。ふとしたときに今何してるかな、とか思ったり。その人のこと考えるとドキドキしたり。絶対、そこにいるわけないのに、その人の声が聞こえるような気がしたり」
そこまで一気に言い切って、そっと相手の顔を伺えば口をポカンとあけて自分を見守る黒い瞳。
「その人、たまにしか逢えないんだけどさ、顔みたり、声が聞こえたりすると、すっげぇ嬉しくなったりするんだ。オレ、おかしいよな?」
指先の震えが声に伝わらないように、ことさらゆっくりとはっきりと言葉を紡ぐ。
すると、これはこれは、とでも言いたげに口元がひきあがり、細い目がさらに細められて。
「鋼の。それは『恋』だ」
そう断言してくれた顔は、間違いなく、今世紀最大のジョークを聞いたかのようにこの事態を面白がっている。
それはつまり、第三者として。
わかっていたけど。
ぎゅっと震える指先を隠すように拳を握りこんだ。
「それで幸運にも君に見初められたラッキーな人物は誰かね?」
面白そうに、楽しそうに、にやにやと笑いながら。
相手によっては協力するにやぶさかではないぞ、と匂わせる表情。
逃げたくなる視線をムリヤリ戻して真っ向から胡散臭い笑顔を見据える。
さぁ、ここからが勝負だ。
「あんた」
「は?」
「あんただよ、オレの好きな人。
ねぇ、今きまった恋人いないんだろ?
オレ、あんたのこと、口説いていい?」