中・長編
□秋空の下、並んで歩く (P6)
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中央司令部に籍を置くロイ・マスタング少将の探し物は資料室の奥で見付かった。
きちんと分類された資料が順序正しく詰まった書棚の並ぶ場所ではなく、用途や意図が不明なものや分類不可能なものをとりあえずと放り込まれそのままになってしまったもの、それらが無造作に突っ込まれた最奥部。
薄暗く埃っぽいその場所で、小さな窓から差し込む光がわだかまる僅かなスペースに猫がうずくまるように。
「少佐」
呼べど反応は返らず。
「エルリック少佐」
先ほどより大きめの声をかけるけれどその身体のどこも動かない。
反応のない金色の頭を見下ろして。
「エドワード・エルリック少佐!」
苛立った声音でフルネームを呼ばれ、頭の高い位置で一つに結ばれた金色の尻尾がびくんと跳ね上がった。
振り仰いだ視線が声の主の表情を認めて怪訝そうな顔をする。
「待たせたな。いくぞ」
そんなエドワードに頓着せず、ロイはその肘をとって立たせる。
どうかしたのか、などとは聞かない。聞いて答えて貰える状態ではないと判断したからだ。
弟の体を取り戻したエドワードが自分の居場所と決めたのは、結局この男の傍らだった。
自分の手足は取り戻せなかったけれど、戦争に明け暮れていたこの国に五体不満足な人間はいくらでもいるし、軍には機械鎧装備者も少なくない。
アルフォンスはまだダブリスで兄の手足を取り戻す研究を続けているけれど、当の本人は別段不都合も感じていないしこのままでもいいか、と思っている。
何よりも。
自分の手足を取り戻すよりも。
大切なものを見つけてしまったから。
だから、強引にロイの家に居を定め、甲斐甲斐しく世話を焼くこと約1年。
ようやく想いを通じ合わせたのだけれど。
その事実は決して人に気付かれてはならないこと。
それを二人は何よりもわかっているから、こんなことはあってはならない。
マスタング少将が、司令部内で感情も露わな顔のままエルリック少佐を引きずるように歩いているなどということは。
自分の肘をつかんだまま大股で歩く男にあわせて早足になりながら大切な人の隣へ並ぶ。
「少将、今日はどなたから貴重なご意見を頂いたんです?」
階級呼びと敬語、そして対外的な硬い声音。
その声音にマスタング少将は息を吐いた。
他者がいることを忘れるな、ここが未だ敵の減らない軍であることを忘れるな、との戒めを読み取って。
息を吸って、吐きながら、同時に肩の力を抜く。つかんだまだった手も離した。
「大総統府に出頭したあとは直帰で構わないそうだ」
「それはありがたいですね」
返ってきた言葉は問いに対する答えではなかったけれど、先ほどよりゆったりとしたペースで歩き出す人の横顔を窺う。
その顔が、まぎれもなく『焔の錬金術師、ロイ・マスタング少将』の顔であることを確認して、エドワードも『鋼の錬金術師、エドワード・エルリック少佐』の顔で一歩下がってついていく。