未来捏造パラレル

□第七章『自立』
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 季節が何であれロイ・マスタング准将の多忙さに変わりは無い。
 決済すべき事柄は後を絶たないし、改革のために必要な根回しやら顔つなぎやらはまだまだ当分なくならない。
 当然、ロイ・マスタング宛の大量の郵便物全てに目を通すヒマなどあるわけがなく。
 毎日届けられる膨大や量の郵便物の仕分けはファルマン少尉の仕事である。

 北から呼び戻されたばかりの頃は、宛名に『親展』と書かれているものまで中身をチェックすることにためらいもあったが、それらに目を通す日々が続くうちに、実際に准将の手元まで届けるべき文書が如何に少ないかすぐに知れた。

 治安の悪さに対する苦情、地元に駐留する軍隊の横柄さに対する陳情、それら軍に関することならまだしも、公衆トイレを修理してくれというものまでロイ・マスタング宛で届くのはどうしたことか。
 果ては写真集を出さないかというお誘いはファルマンの理解範囲を超えている。
 これもアメストリスの英雄として顔と名が売れてしまった弊害か、とは思うけれど。

 苦情など問題提起と見做されるものは該当部署へ回送し、あきらかに准将個人に関するもののみを選り分けていく。
 それ以外の中で今後必要と思われる情報は自分の頭の中に収納し、後はゴミ箱へ直行だ。

 判断に迷うようなものは本人やその副官に確認を取ったりもしたけれど、二週間もこの業務を続けるうちに、本当に自分が読むべきでない手紙の差出人の名は記憶力を誇る脳に蓄積された。


 春の訪れを感じさせる穏やかに晴れた日。今日も郵便物の仕分けにいそしんでいたファルマンは今まで見たことのない差出人の手紙に、深く考えることなく鋏を入れた。

 封筒の下には近くの学校の名と個人名があったが『未来を担う子供達に充分な教育を受けさせるために』などという名目で寄付金を求める手紙も少なくはないのだ。
 だが、その手紙の内容を読み進めるうちにファルマンはポカンと口を開けることとなる。

 まさかこのような手紙が自分の上官のもとに送られてくるなど、予想もしていなかった。
「確かに保護者と言えば保護者かもしれないかも…」
 小さく呟きながらその手紙を『准将行き』と書かれた箱の、一番上にそっと乗せた。





「拝啓 時下ますますご清祥のことと──」
 時候の挨拶に始まって、先のクーデター制圧の活躍を称え、現在の改革への期待とその努力への労い。そして多忙な折に時間を取らせてしまうことの詫びが、簡潔ながらも丁寧に書かれていて、ロイは差出人に好感を持った。

 手紙を脇に立つ副官に渡し、読み終わった頃を見計らって声をかける。
「どう思う?」

 面白そうな顔をして自分を見上げてくる黒い瞳を、リザはまっすぐに見返した。

「どうなさるおつもりですか?」 
 これまた上官と同じように面白がっている口調で尋ね返す。

「電話でもいいが、直接会ったほうが話が早いだろう。時間はとれそうか?」

「来週でもよろしいですか?」

「かまわんよ。先方の都合もあるだろうし。今日明日中にどうこうという話でもないしな」

「了解いたしました」

 どういう経緯を辿るか興味津々で見守っていたファルマンの脇を規則正しい足音でリザが通り過ぎていく。
 自分のデスクから電話をかけようとする彼女に声がかけられる。

「鋼のとかち合わないようにしてくれよ」

 その口調に我らが有能な上官がこの事態を楽しんでいることが感じられて、ファルマンはかすかに肩をすくめた。




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