未来捏造パラレル

□年越しの宴
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 中央司令部の大食堂は新年を迎えるための飾りつけがされ、8人がけのそっけないテーブルはいくつかずつあわせてクロスがかけられている。
 たったそれだけのことだが普段とはまるで違う装いを見せている。
 たくさんの料理がテーブルにところ狭しと並べられ、その間を皿を持った青い軍服が右往左往している。

 形式にのっとった祭典を控えた上層部とは別に、現場の年越しは毎年毎年こんな風景で繰り返される。
 去年とほとんど変わらないその喧騒の中で、兵士達に話しかけられたりからかわれたりしながらも笑い返す少年がいる。
 その茶色がかった金髪の持ち主は、本来軍とは無関係のはずだが国家錬金術師の兄に連れられて司令部に出入りする内にすっかり馴染んでしまっている。



「楽しんでるかね」
 右手にグラス、左手に皿を持ったロイ・マスタング准将は、壁にもたれてそんな弟に柔らかな笑みを注ぐ兄の隣に立った。

「ん」
 ちらりと黒い髪に縁取られた顔に視線を向けて右手に持ったグラスを上げて、またすぐに弟を見守るように目で追う。

「アルフォンス君も楽しそうだな」
 エドワードの視線を追ったロイも笑顔全開の少年を見て自然と笑顔になる。

「将軍さま来るとこじゃないんじゃないのか?」
 下士官達が飲み食いするだけのものだから気にせずに弟も連れてくるといい、と言ったご本人はすでに佐官すら超えている。

「階級に『将』の字が付いたからといって誰でも『将軍』というわけではないのだよ」
 笑顔のまま持っていた皿をエドの前に差し出す。
 その顔を見ないままエドワードワードはサンドイッチに手を伸ばす。

「しかし、君とこうして新年を迎えることができるとは思わなかった」

「そうだな。去年まではどこで新年を迎えるかもわからない旅暮らしだったしな」
 弟の身体と自分の手足を取り戻したら資格を返上するだろうと思われていた鋼の錬金術師は、未だに国家錬金術師をやっている。
 そのおかげでこうして新年を迎える場に同席していられることへの言葉だったのだが、エドワードは単純に去年までの自分の境遇との違いを思ったらしい。
 互いの思いや考えの、こんな些細な食い違いがロイを落ち着かなくさせる。

「鋼の」
 君と今この瞬間をともに過ごせることが嬉しいのだと、口に出してしまいそうになった。

「ん?」
 相変わらず弟を穏やかな瞳で追い続けたまま、自分を見ない横顔に言葉を飲み込み当たり障りのない言葉を続ける。

「まもなく年が変わるな」

「そうだな」

 エドワードの視線はアルを追いかけたまま。
 ロイの視線はそんなエドワードの横顔に向けられたまま。

 国内を飛び回っていた兄弟が旅をする必要がなくなり、この中央に落ち着いてすでに半年あまり。
 物理的な距離が飛躍的に埋まった今年という年が過ぎていく。

 来年は。
 心理的な距離が埋まるといい、と。
 そう心につぶやく。




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