未来捏造パラレル

□第四章『効果』
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 中央司令部の三階奥。
 本来なら一般人が入れるはずのない部屋の応接セットに、どうみても軍人には見えない少年が座っている。

 遅い昼食から戻ってきたブレダ少尉は、恐縮する様子もなく優雅に紅茶を飲んでいたその少年に声をかける。
「よぉ、アル、来てたのか。学校はどうした?」

「ブレダ少尉、こんにちは」
 ティーカップを置いて礼儀正しく挨拶する少年は、学校はもう冬休みですよ、と穏やかに笑う。

「もうそんな時期か。一年は早いなぁ」
 ところで、エドはどうした?
 いくら司令部の軍人達と顔なじみでみんなから可愛がられているとは言え、国家錬金術師の兄と一緒でなければここまで入ってはこれないはずである。

 この部屋にいるのは真面目を絵に描いたようなクリフォード准尉だけだ。
 ファルマン准尉は今日は非番だし、戻ってくる途中の通信室にホークアイ中尉とフュリー曹長の姿を見かけたから、この部屋にいなくてもちっとも不思議ではないが。

「准将も出かけたのか?」 

 自分がこの部屋を出たとき、確か上司は書類の山と格闘していた。中尉も自分のデスクで仕事をしていたはずだ。自分の休憩中に何か事件でも起きたのだろうか?

「錬金術師同士のケンカがありまして、准将と鋼の錬金術師殿のお二人は現場へ行かれました」
 丁寧なクリフォードの言葉にブレダは思わず聞き返していた。

「錬金術師同士の『ケンカ』に准将とエドの『国家錬金術師』が『二人』で『現場』にか?!」
 思わずいくつかの単語を強調しながら聞き返すと、クリフォードは「はい、そうであります」丁寧に返事をしてくれる。

 はぁぁぁぁ、と呆れたようなため息が思わず口をついて出る。

 なるほど、それで中尉とフュリーが通信室にいたわけか。

「すみません。兄さんがどうしてもオレが行くって言い張って」

 澄んだ声が耳に届く。
 
 錬金術師が派手に暴れているとの報が入って准将が指示を出していたところに、ちょうどエルリック兄弟がやってきたのだという。
 少し待っていてくれ、と准将に手で示されておとなしくソファに座ったまではよかったのだが。

「憲兵の手に余るようなら誰か錬金術師を派遣してやる」
 その一言を聞いてエドワードは立ち上がった。

「鋼の、どこへ行く?」

「錬金術師を派遣するんだろ?」
 だったらオレが行ってやるよ、と歩きだす。

「手に余るようなら、と言っただろう」

「連絡待って動くより行っちまった方が早く対処できるだろ」

「そんなに急いで対応しなければならないほどの事件ではない」
 エドワードを遮るように手を上げて押しとどめるが。

「兵は拙速を貴ぶ、なんだろ」
 その手を払いのけて、にやりと黒い瞳を見上げる。

「行く必要ない」「いや行く」とのやり取りが激化していき、とうとう「ならば私も行く」とロイが言い出した。

「ちょうどいい、現場研修をしてやる」

「そんなん、必要ねーよ」

「現場で怪我をしてきたのはどこのどなただったかね?」

 とっさに言い返せず言葉に詰まったエドワードに勝ち誇ったような笑みを投げかけて、結局二人で出て行ったそうだ。

 中尉がそれを許したのなら自分がとやかく言うつもりもないが。
「まったくよー」

 もうひとつため息をつくと、華奢な少年が細い体をさらに縮めるのを見て「お前の兄貴じゃないよ」と、その頭をぽんと叩く。

 錬金術がらみというとすぐにここに泣きつけばいいと思っているのだ、現場の連中は。
 それと、現場に出たがる准将本人が一番問題なのだ。

 現場研修とは上手い言い訳を見つけたもんだ。いい加減に現場にでるのはやめてくれと、どれだけの人間がどれほどボギャブラリーを駆使して伝えてきたかわからないというのに。
 そのたびに現場にいないと指示が遅れるとか、事件は司令部でおきているのではないとか、なんやかやと言い訳を見つけてしまう。

 確かに、司令部にいては現場の状況を把握するのは難しくなるし、与える指示にもタイムラグは生じる。しかし、それは仕方のないことで、逆に現場では全体が把握できないという弊害もある。そのために現場責任者という存在があるのだ。
 彼の目標も、そのための戦略も戦術も、全て飲み込んだ自分たちがいるのだから、と思ってしまうくらいは許されるだろう。




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