未来捏造パラレル

□第三章『特別』
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 アルフォンスを学校へ送り出し、朝食の片付けや家のことを済ませると、エドワードもアパートを出る。
 別に正規の軍人ではないのだから出勤する義務はないが、アルフォンスが学校に通うのと同じように、中央司令部に通っている。

 秋も深まりつつある。
 ついこないだまで少し歩いただけで汗をかいていたというのに、いつの間にやら空が高い。

 研修後正式に依頼された業務はなかなか終わりが見えてこない。明確な〆切がないため、だらだらやっているせいもある。
 アルフォンスの学校が始まるまでは司令部に顔を出さない日も結構あったし、先月は査定用のレポートを優先してしまった。

 それでも、山積みだった解析待ちの錬成陣は随分とその量を減らした。
 そう遠くないうちに、山から丘へと姿を変えた書類の束は姿を消すだろう。


 その後はどうすればいい?


 高い空を見上げて、爽やかな空の色には不似合いなため息を落とす。

 先のことを考えて立ち止まるよりも、今できることをやって一歩でも進む。
 そんな生き方しかできなかったこの数年。一歩ずつでも進んできたから、今の自分達があるのだけれど。
 ともすれば自分の存在意義が不確かになる気がする。


 オレは何をすればいい?


 今現在やることがあるのは確かなんだから、そんなことで悩んでるヒマがあったら、それをするべきだ。

 わかってる。そんなことくらい。

 今やるべきことは。

 中央図書館に行くことだ。

 昨日やりかけた錬成陣の解析は、その分野の詳しい資料が軍にはなかったので、中央図書館で資料を借りてこなければならないのだ。

 ぶるり。頭を振って、エドワードは前を向いて歩き出した。


 役に立ちそうな文献をいくつか見繕って手に持ったまま、他の書棚に並ぶ背表紙を眺める。
 寝食忘れて文献を読む必要などもうないのだけれど、興味のあるものが目に留まれば、習い性でつい手にとってしまう。するともう周りの音は何も入らない自分の世界。

 ふと、壁の時計を見上げると、昼はとうに過ぎていた。
「やべ」
 別に約束をしているわけではないけれど、ロイの都合がつく限りは一緒に昼を食べることが暗黙の了解になっている。
 しかし、すでに昼食を一緒にという時間ではない。

「もう食っちまったろうな」
 午後にはずせない用事があるって言ってたし。仕方ない、途中で食ってくか。

 貸し出し手続きをとりながら、中央図書館から司令部の道のりとその途中にある店を頭に描く。






 その頃、中央司令部食堂の片隅に『あわててランチをかっ込む准将閣下』というめずらしい光景がいくつもの目に目撃されていた。

 午後の用事に間に合うよう食事を摂らなければならないのはわかっていたが、そろそろエドワードが来るだろう、来たら一緒に食事を。と待っているうちにずるずると時間は過ぎた。
 そうして「これ以上先延ばしになさると昼食抜きになりますよ」と、ホークアイ中尉の愛銃に促されて食堂で慌てて食べるハメに陥ったのだ。

 明日は一日外に出る予定だし、明後日は議員の数人と軍部の数人で昼食会の予定が入っている。その次は週末で学校が休みだからエドワードは司令部に来ないだろう。

 相変わらず彼の中で一番の位置にいるのは弟なのだ。
 どうやっても勝てない。

 いや、勝ち負けの問題ではないのだ。
 自分だって彼を最優先にはできない。

 それができるのだったら、苦しい想いを抱え込むことにはなっていなかっただろうと思う。

 秘めなければならない想いだから余計つのるばかりだった。

 自分にも彼にも為すべきことがあればこそ、口にすることはできないと思っていた。
 それさえなければ、同性だというタブーさえ『軍にはよくあること』だと割り切っていたと思う。

 けれど同時に気付いていた。
 他の何よりも優先すべ事がある自分だからこそ、他の何よりも自分に課した為すべきことに立ち向かう彼に惹かれたことも。
 こんな自分でそんな彼だから焦がれるほどに惹かれ、それ故に表に出せず、さらに想いはつのり、果てのない迷宮へと迷い込む。




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