未来捏造パラレル

□第一章『帰還』
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 クーデター騒ぎから数ヶ月。

 セントラルシティの街に残されたクーデターの傷跡もほぼ癒えた。
 もちろん、まだ爪あとが残っている場所もあるが、街の喧騒は銃声や軍靴の音ではなく、はしゃぐ子供たちの声であったり、客を呼び込む店の主人の声に戻って久しい。
 率先して街の復旧に励む軍人達と街の人々の関係は、長くなる昼の時間と比例するかのように、クーデター前よりも良くなっていっている。



 そんな初夏の日の陽射しが傾いた頃だった。

 鋼の錬金術師が自分によく似た少年を伴って中央司令部を訪れたとき、その部屋に集っていた旧知の軍人達は彼とその弟が本懐を遂げたことを知った。

 祝福の言葉を誇らしげに、照れくさそうに受け止める金色の二つの頭。
 その風景を皆より一歩下がって眺めながら、ロイ・マスタング准将は誰にも気付かれないよう小さなため息をついた。

 暗い瞳をして車椅子に沈み込んでいた子供は、年を追うごとにその金の瞳で自分を魅了していった。
 口を開けば憎まれ口ばかりでこちらの心配をよそに危険なことには自ら首を突っ込み、手を差し伸べようとすれば払いのけ、ハラハラしつつも見守っていればいつのまにか巻き込んでいてくれた。
 エドワードが壁に当たるたび、傷つくたび、何度「もう諦めたまえ」と声をかけそうになったことか。

 ここにいる全ての人間が、彼等の念願成就を我が事のように喜び、祝い、今までの苦労をねぎらっている。
 恐らく、彼等の幸を祝えない人間はこの場で自分ひとりに違いない。
 ロイは苦いものを噛み締める。

 とうとう離れて行くか……。

 そもそも彼が国家錬金術師になり、軍に身を寄せていたのは弟の身体と己の手足とを取り戻すためで、それが達成された今、軍に頭を垂れる意義はない。
 故郷のリゼンブールに帰るのか、イーストシティあたりに落ち着くのか。
 いずれにしても国家資格を返上し軍との縁を切るものと、ロイならずとも事情を知る者なら誰でもそう思っていたはずだ。

 いつかその日が来ることを彼のために、信じてもいない神に心の底から願ったこともある。
 けれど、それと同じくらいの重さで、この日が来ることに恐怖していた。
 自分と彼とをつなぐ「軍」というたった一本の鎖が切れてしまうことを何よりも恐れていた。

 ただ自分のそばに置いておきたいというだけの、自分の醜い感情と向き合い何度自己嫌悪にかられたことか。

 しかし、そんな燻った思いと戦うのもこれで終わりならば、むしろすっきりするかも知れないと。
 自分の心を納得させるためだけの思考を続けて金の頭をみつめる。
 笑顔で「おめでとう」と言ってやれるのか自信がない。
 いや。
 彼と向かい合った時には笑ってやるつもりだった。笑顔をつくるのは得意なはずだ。


「准将」

 ようやく質問攻めから解放されたエドワードは壁によりかかるようにして立つロイの元へと歩み寄る。




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