中・長編

□未来への記憶(P26)
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 大仰にためいきをついてみせたエドワードの、フードからはみ出した前髪を伝って雨が頬を濡らす。
 さっきからの口調はいつものエドワードらしくない。
 どこか茫洋とした感じのする少年は、いつものようにぽんぽんと言い返してくるものの、その言葉が、口調が、どこか柔らかい。
「理解しようとしてくれていたとは知らなかったな」
 片眉をあげてからかう言葉を口にするロイを見つめる金色の双眸に、いつもならどう言い返してやろうか、と企む色がない。
 ロイの指先が伸びて金色の前髪から垂れるその水滴をぬぐった。
「あまり心配をかけるな」
 苦笑交じりの言葉に黄金の瞳が黒い瞳を覗き込む。
「なんだ?」
 あまりにもじっと見つめられてロイは訝しげな顔になる。
「……心配、なんだ?」
 何かあったのだろうか、と瞳を覗き込むけれど、傷ついたような気配はなく心のうちで安堵のため息をつく。
「もちろん、心配しているとも」
 君が何か問題を起こせば火の粉はそのまま私に降りかかってくるからね。
 いつものとおりに続けようとした台詞は、ロイの口から出ることはなかった。
 なんとなれば、まるで不意打ちのようにエドワードが微笑んだのだ。
 嬉しそうに。
 照れくさそうに。


 二人の始まりとなった、あの日の光景。
 それをなぞるように、ロイがエドワードを捉える。
 一瞬ひどく驚いたような顔をして、そしてぎこちなく微笑む。

 距離はだいぶある。
 間に人も大勢いた。

 それでも。
 雑踏をかきわけてロイが近づいてくる。

 あの日と同じように、エドワードは立ち尽くしたままロイが歩み寄って来るのをただじっと見ていた。 



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