中・長編

□a long long time ago(P16 完結)
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 夜明けだった。
 薄紫の靄があたりを包んで視界がきかない。
 ゆっくりと起き上がると鋼の左足がキシリと音をたてた。
「鋼の、起きたのか」
「あぁ。大佐、おはよう」
 すっかり灰になっている焚き火の跡を挟んで黒い瞳と金色の瞳が交錯する。

「夢を、見たよ」

 乳白色に(けぶ)る空気の中にあっても、稀有な光はまっすぐにロイを射抜く。

「私もだ」

 闇よりも深い漆黒は、光を飲み込んでなおさら闇を深くする。

 遠くで気の早い小鳥が啼いた。




 山から下りる日もこんな靄のかかった朝だった。
 こんな霧の深い朝はあとからいい天気になるもんだ、と村の老人の言葉にローランドは大きくため息をついた。
 ようやく泥まみれの生活から解放される、と。
 くすくすと笑う声が聞こえて振り向いたローランドは、金髪を揺らして笑うテオドールの薄茶の瞳と出会う。
「ご、ごめん。笑ったりして。でもあんまり大きなため息だったもんだから…」
 それと、昨日はありがとう。
 テオドールが差し出した手をローランドは躊躇いなくとった。




 闇の中に、光の中に、それぞれが見た夢の残滓を見つける。
 大きなため息をついたのはエドワードだった。

「またアンタの勝ちのようだな」
 すっげー、自信満々って顔してんぜ。
 諦念のいりまじった苦笑を口元にのせてエドワードは鋼の指でロイの顔を示す。

「信じてもらえてうれしいよ」
 受け止めた表情は、作り笑いでもエドワードの見慣れた胡散臭い笑顔でもなかった。




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