どれだけ意味深な言葉を口にしても、みつめる視線に熱をこめても、相手がそれを受け取れるだけのスキルがなければ意味がない。
「どういえばわかってもらえるのかな」
「ぐだぐだとこねくりまわさずに、ストレートに言ゃあいいだろっ」
短気な錬金術師は今にも席を立ってしまいそうだ。
「ストレートに、ね」
野暮なやり方は好みではないが、いたしかたあるまい。
最年少国家錬金術師の頭脳に、ではなく、恋愛事にとことん疎い15歳の少年にも理解できるように、ストレートに。
もう一度咳払い。
その金色の瞳に自分が映っていることを確認して。
「だから、その、結婚してくにゃにゃい!」
沈黙。
しまった。かんでしまった。
「ば、ばっかじゃねーのっ?」
はぁ? 何いっちゃってんの? ふざけてんじゃねーよっ。
口早に呟きつつ、ぴょんとソファから立ち上がり、すばやい動作で部屋を横切っていくのを見送ることしかできなかった。
ぱたん、とドアが閉じる音が室内に響く。
その音に我に返ってがっくりと机に手をついてうなだれる。
「……惨敗だ」
せめてもっとスマートにはっきりと言えていたら。
後悔してもしきれない。
最後の5分いや、2分だけでいい、やりなおさせてもらえないだろうか。
信じてもいない神に祈りそうになったとき、ドアの向こうで部下の声が響いた。
「あれ、大将、ンなとこで何やってんだ?」
てっきり駆け去っていったとばかり思っていたのに、相手はまだそこにいるらしい。
声は聞こえないものの、慌てふためく気配を感じる。
足音を忍ばせてドアに近づき一気に開ける。
内側に開くドアと一緒に、ころん、と転がる金と黒の塊。
ドアノブに手をかけたまま固まる。
見下ろしたそこに、転がったままの、「あ」の形に口を開けたエドワード・エルリック。
上下さかさまに見下ろすその顔は頬が紅く染まっている。
「あー、その……」
「な、なんだよっ」
「ふざけてなんかいない」
「だ、だったらどうした!」
「私は本気なんだ」
転がったままのエドワードの脇に膝をつく。
「え……」
起き上がろうとする、その背に手をそえる。
「5分前からでいい、やり直させてくれないか」
立ち上がったエドワードの前に跪いたまま、左手を掬い取る。
「や、や、やり直さなくていいっ!!」
頬だけでなく首筋まで紅くそまったエドワードは、慌てたように重たい機械の右手を顔の前で振る。
「たっ、大佐の言いたいことはわかったから!」
触れ合っていただけの手が動く。
「答えを?」
きゅ、っと力を込めて握りかえすまだ小さな掌。
君と違って言葉にされない意思を読み取るのは得意だから。
充分すぎる回答。
「えーと、とりあえず、おめでとうって言っていいんスか?」
廊下に突っ立ったままのハボックが困ったよう二人を見下ろしていた。
終
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あとがき
お読みくださってありがとうございます。
二周年企画お題第二弾♪
『だから、その、結婚してくにゃにゃい!』とプロポーズの言葉をかませる。
という、とても難易度の高い台詞を、うどんさまから頂きました。
確かにウチのロイさんは……特に最近のロイさんはヘタレ度が高めだとは思いますが、この台詞を頂いたときは途方にくれました。が!考えているうちに楽しくて楽しくて(笑)
やっぱりロイさんは適度にかっこよくて、適度にヘタレていると素敵だなー、としみじみしてしまいました。
すっかり好みに走ったためこんな話しになってしまいましたが、お気にめしていただけるでしょうか?
企画にご参加くださいまして、本当にありがとうございます。
お楽しみいただけると良いのですが。
07/12/09