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□ここが我慢の限界だ!
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 リビングに移動し、出してもらったハーブティーを飲みながら、至希はやっと一息ついた。

 何しろ家出を決意し、荷物をまとめ家を出て社の家に来るまでの数時間、おそろしい密度で動きっぱなしだったのだ。

「はぁぁ……」

「なんか寛いでるとこゴメンなんだけど……、で?」

「社さん。奏江さん。俺は十八年生きて来て、初めて見ました」

「見た……って、何を」

「『我慢の限界』を」

「「…………うわぁ」」

 蓮だ、原因は絶対に蓮だと、社は確信した。

「また、壽ちゃん絡み?」

「はい。まあ、色々あったんですが、最初は入浴時のことでした。今日は母が仕事で遅くなる日だったんで、俺がことを風呂に入れていたんです。そうしたら、そこに親父が乱入してきて」

「らん……」

「一緒に入ろうとするならともかく、ことを洗い終わったタイミングを見計らい、泡だらけの俺を外に放り出しやがり」

「…………」

「最低の父親ね」

 春とはいえ、夜は冷える。
 ろくに湯に浸かりもしていないだろう息子を、泡だらけで放り出すとは何たることだ。

「まあ仕方ないかと、洗面所で泡を流して部屋に戻ったんですが、」

「仕方ないで済ませるのね、それ」

 呆れたような声で言う奏江に、あっさり頷く至希。
 慣れてます、とでも言いたげな様子に、社は涙が出そうになった。

「ですが、今度はその部屋に乱入してきまして」

「え、何でまた」

「ことが、服を着るのを嫌がったようです。モタモタして風邪を引くようなことになったら大変だと思ったんでしょうが、二人してびしょ濡れのまま俺の部屋に。ちなみに終わらせたばかりの宿題のノートが台無しになりました」

「そ、れは……」

 壽は兄が大好きだ。それはもう大好きだ。
 それに張り合おうとして騒ぎを起こすのが蓮で、そのしわ寄せを食らうのが至希である。

「まあ、それも、それほど大したことじゃないんですが」

「……知ってたけど、あんたが可哀想に思えるわ、至希」

 裸で放り出されて部屋も宿題もめちゃくちゃにされて、まだ許せるのか。

「まあ、そのあと、ことに水分補給させながら、俺は夕飯にしたんです」

 壽は、基本的にキョーコか至希の差し出す食事しか摂らない。
 お菓子やジュースなどなら蓮からでも大丈夫だが、食事用の椅子に座ると、どういうわけかその二人限定になってしまうのだ。

 なので、普段は二人が壽を挟むようにして座りながらの食事風景となる。
 キョーコが壽に食べさせている間に至希が食べ、至希が食べさせているときはキョーコが食べる。そういう図式だ。

 二人に同時に構ってもらえると非常にご機嫌で、それはよく食べるものだから、キョーコもつい至希を頼るのだ。

 だが今日はキョーコがいないので、先に壽だけに食べさせ、至希は後から一人で食事にしたのだろう。


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