スキップ・ビート!
□シャッターチャンスはone&only
2ページ/5ページ
事の起こりは二ヶ月前。
とあるトーク番組にゲスト出演することになった蓮は困っていた。
というのも、この番組、ゲストはプライベート写真を持っていかなければならないのだ。
まあ、プライベート写真と言っても、前日の夕飯とか飼っているペットとか、だいたいそんなものなのだが、そこはやはり敦賀家。
無理にとは言わないが、できれば家族が写ったものがいいと、番組側から打診されているのである。
「ふむ……」
キョーコの写真であれば、大した問題ではない。彼女自身も芸能人であるから、旅行先で撮ったスナップ写真くらい軽いものだ。
しかし、求められているのは『家族写真』である。
それはつまり、中学生になったばかりの息子も写ったもの、ということだろう。
「うーん……」
今まで、至希をメディアに露出したことはない。
両親の意向をくんで、ローリィたちも至希を守ってくれている。
キョーコだけの写真でも、自分とのツーショットでも、番組側は文句を言わないだろう。
それは分かっているのだが、それでも蓮は悩んでいる。
そう、彼は息子を出したいのである。
あまりに徹底して隠したためか、至希については不名誉な噂も乱れ飛んでいる。
聞くのも不愉快なので詳しくは知らないが、要するに『表に出せないような息子なんだろう』ということであり、ひいては敦賀家の醜聞であるのだと、そう言いたいわけだ。
これには、蓮はもとよりキョーコもたいそう憤慨した。
良い子過ぎるほどに良い子の息子をつかまえて、なんたる言い種だ。
許されるなら24時間行動記録をつけて発表したいくらいだ。
しかしそんなことができるはずもなく。
「顔を出すわけにはいかない……その上で、至希の可愛さや家庭円満さが伝わるような……」
ぶつぶつ言いながら広げるのは、大量の写真だ。
趣味の域を遥かに超えて所蔵している家族写真の山を、一枚ずつ崩していく。
「……あ」
どれほどの時間が経ってからか。
山の中から見つけた一枚の写真に、蓮の手が止まった。
それは、敦賀家の居間で撮られたもので。
「よし……これでいこう」
非常に満足そうに笑う視線の先には。
ソファーに座る蓮と、その膝枕で寝こけている至希、という(撮影・キョーコ)───破壊力満点な一枚があった。
その一枚は当然ながら大反響だった。
放送後に番組のホームページに寄せられた書き込みは最多記録を更新したらしい。
各方面に素晴らしい成果を残したわけだが、その写真に写っていた当の本人は、放送を見ながら飲んでいたジュースを吹き出すくらい驚いた。
当然、父親を責め立てたのだが。
「阿呆かぁぁぁ! 何だよあれは!? 覚えがないっ! 合成か!?」
「失敬な。家族写真に合成なんて野暮なことはしない。あれは、ソファーで寝ていたお前を起こさないよう、そうっと膝枕に乗せて撮影したものだ」
「捏造じゃねぇか、ってかそんなことしてたのか!?」
「何だ、嘘偽りは一つも無いだろう。お前の顔もうまい具合に隠れているし、それを見下ろす父さんの慈愛に満ちた顔だって本心だぞ? どこにも問題ないだろう」
「あっ、あっ、あるわぁぁぁぁぁ!!!!」
というようなことがあり、それ以来、至希はすっかり写真嫌いになってしまったのである。