スキップ・ビート!
□1・2・shoot!
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「父がここで働いていまして、忘れ物を届けに来たんですが……」
無駄だろうなと思いつつ、一応言ってみる。
本当なら携帯で電話をし、着いた旨を伝えれば一番早いのだろう。しかし、それをするとまず間違いなく本人が受け取りにくる。場所も周囲もお構いなく、へたをすれば衣装のまま飛んでくる。
そんな事態は回避したいのである。
「父?」
「はい」
あからさまに胡散臭がられている。
それも当然、至希は今、極厚ガラスの黒ぶち眼鏡を着用中であった。
こんな場所で明らかに瓜二つな素顔を晒すほどバカではない。
「それが本当なら、」
っきゃああああぁぁぁぁ!!!!
何か言いかけたガードマンの声は、前触れなく起こった奇声によってかき消された。
その声にびくっと震えたガードマンとは裏腹に、至希は身の冷える思いがした。
来てしまったのだろうか、と。
しかし、恐る恐る視線を巡らせたそこにいたのは───
「あ、バカショーだ」
不破尚だ、と言おうとしたのだが、口から出たのは聞き慣れた単語の方だった。
もっとも、決して大きな声ではなかったし、周りは騒音レベルの奇声に溢れている。
その呟きが届くことなどないはずなのだが。
幸か不幸か、一流ミュージシャンとして磨かれている不破尚の聴覚は非常に優れていたし、至希の声はこれまたよく通る質だったし、何より女性ばかりのなか少年の声は耳に新しく。
「ああ?」
結果、振り向いた尚と至希はがっちり視線を絡ませた。