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□ペンは剣よりも強し!
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「……はい、たしかに。お疲れ様でした、お預かりさせて頂きます」

 渡された原稿をザッとチェックし不備のないことを確認してから、慎重な手付きで封筒へ仕舞う。
 その封筒を自分の鞄に入れ、キョーコはすくっと立ち上がった。

「それでは失礼します。また後日、次号の打ち合わせのための連絡をさせて頂きますので……」

「ああ、ちょっと待ってキョーコ」

 帰りかけたキョーコを引き止める蓮の笑顔は、それはもう百万ドルだ。
 あなたは本当に締め切り明けですか、と問いたくなるほどに清々しい風情である。

「も・が・み・です。何ですか、敦賀先生?」

「前に申し入れがあった新連載なんだけど。受けようと思うんだ」

「ッ!? ほ、本当ですか!?」

 たしかに以前、別雑誌での新連載の話を持ち出したことがある。
 しかし、ただでさえ多くの仕事を抱えている身であり、強くお願いしたわけではない。
 何しろアシスタントは社一人。迂闊に他人を受け入れられない事情は分かるが、これは仕事量から考えるとありえないほど優秀な数字である。

「でも……大丈夫ですか?」

 優秀な数字、しかしそれは、二人の優秀さだけではなく、二人に掛かる負担の重さも表す数字だ。

「もちろん。出来ないことをやれるとは言わないよ、俺は」

「それは認めます。けれど、『やれる』と『無理する』の境が曖昧でもありますよ、敦賀先生は」

 ぴしゃりと切り捨て───作家が『描く』と言っているのを止める編集も編集だが───視線を向けるのはアシスタントの社だ。

「社さん。正直に答えて下さい。新連載は可能ですか?」

 仕事だけではなく生活面でのアシストも行っている社に問う。
 もしも彼が不可能と答えれば、編集部が何と言おうが本人が何と言おうが話は進めない。
 創作という行為が人間の手と脳から生み出されるものである以上、疲労と縁を切ることはできない。
 身体を壊されては元も子もないし、何よりも、

「過剰な仕事量でもって、作品の質を落とされては困るんです」

 それは、編集というよりむしろファンとしての言葉だ。
 そんな物、読みたくないと。
 ある意味では礼を失しているその発言に、しかし蓮は笑みを深くした。

「分かってるよ、キョーコちゃん。それも考えた上でのことだから」

「社さん、本当ですか?」

「蓮、説明が足りてない。キョーコちゃん、大丈夫だよ。じつはそろそろ完結する話が一つあってね、そこのスケジュールに組み込もうと思ってるんだ」

「ッ!? 連載が終わる、って……、それ、他社の……」

 そう。どこの出版社も欲しくて仕方がない『敦賀蓮のスケジュール枠』。他社が押さえているその一つを回しての新連載だと言うのだ。
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