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□今日も明日も。
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「残念だけど、仕事をもらえるのはいいことだよ。どんな仕事なんだい?」
『世界遺産から天の川を眺めよう、という……』
「? 世界遺産?」
『はい。行き先は、白神山地です』
「……って、あの秋田と青森の境の?」
『そうです。まあ、実際には白神山地には入らないで、隣接してる山に登るらしいですけど』
「へぇ……。面白そうだけど、大変だね」
『前日から近くの山小屋に泊まるんですけど、携帯の電波も入らないらしいんで……』
「そうか。じゃあ電話もできないんだね」
『はい……。ごめんなさい』
「いや。仕方ないだろう? 気にしなくていい」
『……はい』
キョーコの返事は冴えない。よほど七夕デートが楽しみだったのだろう。
「また来年もあるんだし」
慰める蓮の声もまた、本人の自覚なしにトーンが落ちていて、それが余計にキョーコの気分を落ち込ませる。
日本の芸能界で有数と言っていいほどに忙しい敦賀蓮が、個人の希望で休みを取ることがどれほど大変なことか知っている。
そこまでしてくれたというのに、自分は怪我をした他事務所のタレントの代わりになって、恋人の努力を無駄にするのだ。
本当に、申し訳が立たない。
目の前にいれば土下座でもしたいくらいの気持ちでいるだろう電話の向こうのキョーコに、蓮が言った。
「じゃあ、キョーコ。おみやげをお願いしてもいいかな?」
『え? おみやげ……って、秋田の?』
「そう。しかも二つ」
『は、はい! 何でも言って下さい! 何個でも!』
「じゃあ、一つ目。写真」
『……写真?』
「そう。きっと凄く綺麗に天の川が見えるだろうから、その写真。キョーコが自分で撮ってきて」
同行するであろうスタッフではなく、仕事用に撮った一枚ではなく、キョーコがその手で撮った写真。
「キョーコの視界を分けてほしい」
『……はい!』
「で、もう一つは、きりたんぽ」
『きり……? 蓮さん、知ってますか? きりたんぽって食べ物ですよ? 郷土料理ですよ? 鍋物ですよ?』
食欲というものが決定的に欠落している彼からのリクエストだとは思えず、不必要なまでに丁寧に説明するキョーコ。
けれど蓮の答えは、「知ってるよ」とのことで。
『ど、どうしちゃったんですか、蓮さん!?』
「話は最後まで聞こう。暑いかもしれないけど、キョーコ、きりたんぽ食べてきて」
『はあ? 私が?』
「うん。それで、味を覚えて、帰ってきたら作ってよ」
『っ! ……はい!』