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□北の大地にロマンを求め。
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「至希、楽しんでるかしらねー? 今日は一日クラス行動でね。明日は班での自由行動で、至希たちの班は札幌の市中探索なんですって」

「へぇ、札幌か。いい時期だろうね、あっちは」

「ふふ。たくさん写真撮って来てねってお願いしたの。あの子が友達と一緒にいるところなんて、滅多に見られないから楽しみで」

「キョーコ、至希にちゃんと『自分を撮るように』って言った?」

「もちろん! 言わなきゃあの子、風景ばかり撮るのは分かってるもの」

 などなど、自宅にて連休を満喫中の夫婦の会話。
 息子が修学旅行でいなくなると知った蓮は、それはそれは無茶な手段を使って夫婦での連休をもぎ取った。
 息子が邪魔なわけではない。
 愛しているし、可愛くて仕方ない。
 
 しかし、それとこれとは別!

 やはり夫婦水入らずのスキンシップも大切にしたいのだ。

「うわぁ、蓮さん見て! この旅館、すごく素敵。へぇ〜……いいなぁ温泉」

「温泉、ねぇ」

 正直あまり観光の類に興味がないので、どことなく素っ気ない返答になる。
 温泉とは、要するに風呂だ。風呂なら家で入れる。
 湯治という文化は知っているが、それはたしか継続して浸からねば効果はないはず。一日や二日のことで何が変わるのか、蓮にはよく分からない。
 慣れない土地で不特定多数の同性と湯に浸かるより、家の風呂を愛妻と一緒に使いたい。

 そうだ、一緒にお風呂というのは素晴らしいアイディアではなかろうか。

 そんな、結婚十数年を越えるとはとても思えないアイディアを湧かしている夫とは裏腹に、旅のロマンに夢中のキョーコ。

「素敵ね、純和風。うち、畳ないものね、フローリングばっかりで」

「畳?」

 欲しいなら、一室くらい和室に改装しようか? と、言いかけて、蓮は口をつぐんだ。

 そうだ……忘れていた。かつての夢を。野望を。
 現実という壁の前に、そんな夢を持っていたことすら忘れていた……!

 敦賀蓮は、即断即決の男だった。
 特に自分の欲望が絡むときは、辞書から『ためらい』という単語は消え去る。

「じゃあ、そこ行こうか今から。今すぐ」

「えぇ!? そこって、北海道よ、ここ?」

「分かってるよ、もちろん。まだ休みは三日もあるし、充分だろう?」

 笑顔で言いながら、その手は素早く携帯を操作し航空チケットをゲットしている。

 素晴らしきかな文明の発達。
 思いつきからわずか四時間後、夫婦は揃って空を飛んだ。


   
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