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□チャリティーweek!
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一件目は、進路で親ともめてる高校生。
二件目は、友達が出来ない中学生。
三件目は、恋人が欲しいフリーター。
それらの相談を何とかこなした彼に、最大の試練が降り掛かったのは四件目。
みんなに「名前をバカにされる」という、中学生からの相談で。
放送には乗せられないということで、スタッフがそっと寄越して来たメモにあった名前は、そのものズバリ、『松太郎』くん。
目眩を覚えた。
口が避けても「いい名前じゃん」とは言えない。そもそもそれじゃあ悩み相談になってない。
しかし本能のままに「改名しちまえ」とか「名前を捨てれば」とか、言うわけにはいかない。
これが踏ん張り所だ! と脳細胞にフル回転を命じたその瞬間、新たな試練がやってきた。
「よろしくお願いしまーす」
とは、この会場のレポート&ゲストにやって来た京子の声だ。
さすがに女優らしく嫌な顔一つ見せずにこやかに向かいに座った京子だが、スタッフから同じメモ書きを渡されたとき浮かんだ口許の笑みは、まさしく悪魔。と、尚は思った。
「あららー。偶然ね、私の知人に同じ名前の人がいるわよ」
『ほ、ホントですか!?』(音声は変えてあります)
「おいキョーじゃない京子さん?」
ちょっと待てお前、何を言い出す気だ。
いや、さすがにいくら何でも『不破尚=松太郎』だとバラすようなことなしないだろう。
しないだろうが、ちょっと待て。
「ホントよ。音だけじゃなくて、字も同じ」
『その人……どんな人ですか?』
「そうねー。小学校一年生までオネショしたわね」
『小1まで!?』
「あッ……そんなに珍しいことか?」
危ういところで言葉を止める。ついつい「あれは事故だ」とか言いそうになった。
「あと、小学校二年生のとき、転んで、器用にも5メートル先の川まで転落したわ」
『川ァ!?』
「おッ……どろいただろうなー、そいつも……ハハハハハ」
つい、「俺のせいじゃない」とか言いそうになった。
「小学校三年生のときには、テストで15点を取ったわね。国語で」
『国語で……へぇ〜』
「かッ……回答欄をずらしちゃったとか、かな」
思わず自己弁護。……事実は、回答欄のズレではないけれど。
その後も京子の話は続いた。
何でお前そんなことまで覚えてんだよ、とっとと忘れろこの野郎。
そう言いたいが言うわけにもいかず、逃げたいが逃げるわけにもいかず。
中学校2年生のとき、上履きを両方とも右足用を持っていってしまったことをバラされたときには、いっそのこと懐かしさすら覚えてしまったほどだ。
京子の面白おかしい思い出話にとうとう少年が笑い出したとき、スタッフたちが「さすが京子ちゃん」とか言いながら一緒に笑ってるのに気付いたときは本気でへこんだ。
しかし、そのへこみが落ち込みに変わったのは、スタジオの端でマネージャーの祥子さんが肩を震わせてしゃがみ込んでいるのを見つけたときだ。
彼女は知っている。知った上で、笑っている。
「…………」
目の前では、喜々とした善人面で貶めてくる幼馴染み。
周囲を囲む、知らぬこととはいえ自分をあざ笑う仕事仲間。
そして、知った上で、泣くほど笑ってるマネージャー。
俺……独りだ…………。