スキップ・ビート!

□条件はただ3つ。
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 奏江の運転する車で帰宅中、社はどうやって和解に持ち込むか悩みに悩んでいた。
 喧嘩というわけではなく、お互いに非があるわけでもないので、仲直りのきっかけが掴めない。
 そもそも、どうしてこんなことになっているのだろうか。本当なら今頃は奏江の部屋に寄って、美味しいお茶でもゆっくり飲んでいる頃だったはず。
 しかし現実は「寄ってく?」の一言さえもなしに、自分のアパートに向けて車は進んでいる。

(何でこうなるかなー……)

 あっちの二人は今頃、蓮のマンションで幸せムード満開だろうに。

(はぁ〜〜)

「倖一さん、今、キョーコたちのこと考えてるでしょ」

「ふへっ!?」

 急に話しかけられて驚いたのと、口をきいてくれたのが嬉しかったのと、「何で分かったんだ」と驚いたので妙な声が洩れた。

「キョーコは今夜、敦賀さんの家に泊まるのよね。あの子は明日もオフだから」

「あ、ああ……まあ、蓮は違うけどね」

「私も明日は仕事です」

「うん、知ってる」

 今のはどういう意味だろう。「だから泊まれません」? それとも「早めに帰ります」?
 泊まってくれるかもなんて期待は(あまり)してなかったが、改めて言われるとガックリする。
 そのまま会話は途切れてしまい、どうにも中途半端な空気のまま社のアパートについてしまった。

「…………じゃあ」

 ややためらってから、社が車のドアを開ける。
 仕方ない。時間が解決してくれる類の問題だ。
 今夜のところは潔く引こう。

「ねえ───私たち、本当に付き合ってるのかしら」

「!?」

 前言撤回。時間なんぞに任せていたら取り返しがつかない類の問題だ。
 閉めかけていたドアを勢い良く開き、改めて助手席に座り込む社。

「どういう意味?」

「……私たち、キョーコたちと仲がいいわよね。それは嬉しいことだし、私もあの二人のことは好きよ。倖一さんも、あの二人といるときは表情が違う」

「表情……?」

 自分では分からないが、それで考えが見抜かれてたのか。さすが女優。

「私たちが知り合ったのも、あの二人を通してだった」

 たしかにそうだ。だから蓮によく「感謝して下さいね?」と言われる(そのたびにキョーコとのデートのために無茶なスケジュールを組まされるのだ)。

「二人の仲を支えてるうちに、私たちも付き合うことになって。二人の仲が深まって行くのを応援しながら、合わせるみたいに私たちも。キスしたのも、泊まったのも、みんな」

 たしかに、そう思えるかもしれない。お互いに相方から報告やら相談やらを受けている。付き合い出してから初めてキョーコが蓮のマンションに泊まったことで、二人の間にそういう進展の具体性が浮かんだ事実もある。
 それは認めるが。

「奏江さん?」

 けれど、だからと言って、どうして「付き合ってるの?」になるのだろうか。
 分からなくて名前を呼ぶと、奏江は膝の上でギュッと拳を握った。強く強く握って、言った。

「私たち、ただ、あの二人に流されて、後を付いていってるだけなんじゃないの?」

「…………何で、そんな」

「四人でいるときの方が、倖一さん、落ち着いた顔してる。二人でいる時よりよく喋る。そういうことなんじゃないの?」

 狭い車中に沈黙が落ちる。
 社としては、そんなつもりは毛頭ない。四人でいるより二人でいたいし、あの二人が何をしていようが自分達と関連付けなどする気もない。
 奏江がそんなことを考えていたことに驚くし、少し悲しい。そしてそれ以上に、申し訳なく思う。
 そんな不安を感じさせていたとはまったく思わなかった。

「……」

 鞄にソッと手を差し入れ、小さな箱を確認する。
 掌に握り込めてしまえるそれを、ゆっくり取り出した。
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