スキップ・ビート!

□mutual watch!前編
4ページ/4ページ

 それから二週間後。

「あの子は本当に……どうしてこう極端なんだ……!」

 ハンドルに倒れ込むようにしてわなわな身体を震わせる蓮の横、助手席に座る社が苦笑いする。何と言うか気の毒すぎて、笑うしかないといった感じの笑みだ。

「見事だよな……ホントに、キョーコちゃんの情報収集能力」

「加えて行動力も見事です……認めます」

 あの告白から二週間、蓮は一度もキョーコの顔を見ていない。声も聞いていない。メールすらない。
 蓮も忙しい身で、なかなか時間はとれない。だがそれでも仕事の合間を縫って会おうと努力しているのに、ことごとく躱されている。
 蓮のスケジュールを調べ上げ、決して遭遇しないようにしているらしい。
 社は会っているらしいので、とんでもなく繊細な技術での逃亡劇だ。

「電話は出ない、メールは返さない……いや、間違いなく読んでもいないな、あの子のことだから……」

「凄いよなぁキョーコちゃん……何でここまでするのかが謎だけど」

 当然ながら社は二人の関係を知っていた。まだ公にできることではないからと、事が明るみに出ないよう努力もしていた。それもこれも、二人を応援していたからだ。
 蓮の先走りではなく、絶対に恋人同士だったと断言できる証人でもある。
 なのにそれを正面切って否定されたと言うのだから……哀れだ。

「どうする、蓮……? なんか俺、このままだと一生逃げられる気がするよ?」

「同感です」

 伏せていた身体を起こし、表情を改める。

 疲れてばかりはいられない。
 敵は強力だ。
 あらん限りの力を使い、持ちうる限りの情報を生かし───

「……よし」

「お、なんか思い付いた?」

「はい。覚悟を決めました」

 言って、エンジンをかける。低い駆動音が車内に満ち、雰囲気を引き締めた。

「社さん、このあとのスケジュールってどうなってますか? 事務所に寄れますか?」

「え? えぇっと……このあと雑誌の取材があるから、その後ならな。でも事務所に行ってもキョーコちゃんは捕まえられないぞ?」

「そんなことは分かってます。二週間で分からせられました」

「だよな……」

 蓮の追跡劇に、社も助力したのだ。そして思い知らされたキョーコの実力。
 スパイになれるかもしれない。本気でそう思う。

「じゃ、どうするんだよ?」

 アクセルを踏む。静かに走り出した車中、ハンドルを裁きながら蓮は言った。



「───社長に協力を仰ぎます」






<中編につづく>
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ