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□mutual watch!前編
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「あー……」

 沈黙を破ったのは、蓮。

「一つずつ話していこうか……。まず、大前提から。君は俺の恋人だよね」

「ち、違います」

 スパッと一刀両断され、目の前が真っ暗になりかける。
 いやいや耐えろ俺、ここで倒れたら取り返しがつかないことになる予感がする。

「まさか、キスしたり抱き締めたり、冗談でやってたとでも……?」

「お、思ってました……!」

「…………」

「…………」

 いたたまれない空気のなか、キョーコがおずおずと小箱をテーブルに置く。

「お返しします……受け取れません」

 まあそうだろう。キョーコの言葉をそのまま信じるなら、付き合ってもいない男からいきなり結婚を申し込まれているのだ。そんな指輪、貰えるはずもない。

 ものすごくよく分からない事態になっているが、蓮は理解しようとする努力を怠らなかった。
 キョーコがどこかしらおかしいのは、よく分かっているつもりだからだ。

「えぇと……、俺と、キスしたりしてたのは、分かってるよね?」

「……はい」

 改めて言われると恥ずかしいのか、青白かった顔色に朱がさす。

「『恋人っぽいなー』とか、思わなかったのかい?」

「そんな図々しい!! 思うはずないじゃないですか!」

「俺としては、恋人でもない女性にそんなことをする男だと思われてるほうがずっとショックなんだけどね……」

 まさかこういう展開になるとは思わなかった。
 キョーコの事情を考えれば、待たされる覚悟は充分にある。
 今回のプロポーズだって、新しいステップを期待してのものだった。あっさり了承されるとは思ってなかったのだ、本当に。
 けれど、恋人関係を否定されるとは、まったく考えていなかった。
 たしかに「恋人になろう」「付き合おう」のような言葉は告げていない。
 けれど「君が好きだ」と言って、キスして抱き締めて、それが告白にならないはずがない。
 断言できる。絶対にあれは告白だ。
 赤くなったり青くなったり逃げ出そうともがいてみたりと、たしかにあのときのキョーコは落ち着きがなかった。
「私も好きです」などという発言も、二年間聞いたことがない。
 しかし戸惑う様子を見せながらも蓮を受け入れていたし、誘えばマンションにもやってきた。食事を作ってくれることも多々あった。

 これがどうして恋人でないと思えるんだろうか……?
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