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□終わりある綺麗事
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「敦賀さんは……“永遠”ってあると思いますか?」
「永遠?」
 君とだったらいつだって誓うけど、という本音はさておいて。言ってみたところで意味を掴んでくれるとも思えないことだし。
「馬鹿なこと思い悩んでるってことくらい、自覚してますよ!? でも……、どうなんでしょう。途中に結婚式のシーンがあるんですけど」
「君の役の?」
 それはちょっと面白くないな、と噴き出した不満を敏感に察知し(理由は分からない)、キョーコがわずかに身を引く。
「え、ええ……そうですけど……」
「主役じゃ、なかったよね?」
 なのに結婚式などという山場に出るのかという意味での問いだったが、キョーコは捻くれて受けとった。
「そりゃあまだそんな大役は頂けませんけど! ……主役の男性の過去の妻役です。式は回想シーンの扱いで。ちなみに数日で別れます」
 何でも、家族などのために資産家の娘と愛のない結婚に踏み切ったものの、どうしても彼女を抱くことができず、即行で破綻するとのことだ。
 わがままで自由奔放なお嬢様役は演じがいがあるが……
「式で、永遠の愛を誓うんですよねぇ」
 なのに数日。肉体的な関係を持てないというだけで終わる、“永遠”。
「……君は、あると思う?」
「いいえ。終わらないものも、変わらないものも、ありません」
 きっぱりとした否定は、どこか脅迫じみていて。“永遠”を、かつては信じていた自分を突き放すようで。
 眉根を寄せて、唇を引き結んで。怒っている顔なのに、どこか泣きそうで。
 細い身体は抱き寄せたくなるほど頼りない。しかしどこか凛としていて、それが他の男を思っている姿だと思うとたまらなく妬ましい。
(まいったな……)
 思いを自覚してからこっち、冷静で紳士的で大人なはずの『敦賀蓮』の維持に苦労していたりする。
「そんな綺麗事、ありません」
 蓮の葛藤など知らないキョーコの発言に、伸びそうになる腕を必死にこらえながら蓮は言う。
「そう? それこそが綺麗事だと、俺は思うけど」
「は? 終わること、変わることが……綺麗事? って意味ですか?」
「そうだよ」
「ど、どうしてです?」
 目を丸くし、どこか焦ったようににじり寄ってくるキョーコ。
(うん、やめなさい、顔を近付けるのは)
 内心そんなことを考えながら、蓮は穏やかに微笑んでみせた。
「雨が降らなきゃ、枯れてしまうね」
「は? え、ええ、そうですね」
「でも、雨がやまなきゃ、溺れてしまう」
「……はい」
 急な話題転換、しかし少しずつ意図が分かってくる。
「火がなきゃ、凍えてしまうね」
「でも火が消えなければ、焼けてしまいます」
「そういうこと」
「で、でも、例えば……火じゃなくて電気を使うとかすれば、加減もできるし、」
 それなら消さなくても問題ないし……電気代とか問題あるけど、エコじゃないけど、停電したらダメだけど……
 ぐるぐる思考を巡らせるキョーコの頭を優しくポンと叩き、蓮は一層深く微笑んだ。
「それを変化と呼ぶのではないですか、お嬢さん?」
「……あ」
 火しかない時代。電気が生まれている時代。用途は同じでも、違って。でも電気があっても、火が要らなくなったわけではなくて。
「選択の幅ができて、余裕が生まれた気が、しますねぇ……」
「だろう? 結婚式での誓いは、そういう流れを共に越えて行こうっていう、覚悟」
「なるほど! 心意気ッ、根性ッ!」
 それなら得意分野です! と拳を握るキョーコに苦笑う。
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