スキップ・ビート!
□Break The spell
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丁寧な手付きで石を仕舞った彼女が次に取り出したのは、携帯電話だった。
もしかしたら、親友にでも電話をするのかもしれない。
不破のために犠牲にした多くのもののなかに含まれていた、友人という存在。
芸能界に入って得ることができた宝物とまで豪語していた、初めての親友。
ピッピッと鳴るボタン操作音。
それでいい、と思う。
彼女は、自分は一人じゃないと知る必要がある。
自分も、愛されていいと分かるべきで、愛されていることを感じなければいけない。
そうならなければおかしい。
思い出の中にだけではなく、現実にも支えや救いの手があることに気付くことをしてほしい。
それは同時に、自分を思う『キョーコちゃん』との別れになるけれど、過去ではなく今を生きるのは当然のことだから。
(会話を聞くのはさすがにマナー違反だな)
足音を忍ばせ離れようとすると、すんっとすすり上げる声。
それに反応し、足が止まる。
また、泣いているのか?
(コーンがあったのに? あの石があっても?)
思わず振り返って見た光景は、少し意外なものだった。
取り出した携帯を耳に当てず、手に持って画面を見ているのだ。
画面を見て、涙ぐんでいる。
けれどその表情は、決して悲しい色ではなく……
むしろ、喜びに近い色。
(……メール?)
親友に、メールしているのだろうか? いや、操作音は途切れている。
(受信済みの、メール?)
蓮の独白に応えるように、キョーコが動いた。
見つめていた携帯を、ぎゅうっと抱き締めるように抱え込む。まるで、コーンにするように。
「……頑張ります。頑張ります」
聞こえる声は、かすかに震えている。
「私はできる……私なら、できる」
まるで呪文のように繰り返す言葉。
「私ならできる……『君ならできるよ』って……言ってくれたもの」
「……ッッ!」
背筋を走ったものは、戦慄に似ていた。
蓮の脳裏に、数週間前のことが思い起こる。
詳しく覚えていないのだから、他愛無い用事があったのだろう。
ついでに近況を聞いて。
それに、『社長さんにお弁当を作ることになってしまいました』と返って来た。
どこからかキョーコの料理上手を聞き込んだローリィが、ゴージャス弁当をリクエストしたらしい。
文にはされない部分に、ゴージャスなんて分からないわ〜! という悲鳴がある気がした。
まあ、たしかに社長の言うゴージャスについていける人間などそうそういないだろうけれど、彼女の料理の腕前は知っているつもりだったから、気軽に返事を送った。
『大丈夫。きっと、君ならできるよ』
(あのメール、なのか……?)
取り出した携帯電話を確認する。記憶どおりの文面が、そこにあった。
(俺のメール?)
彼女が、コーンの次に……あの石の次に、あの石で補えなかったもののために。
(俺のメールを?)
どくん、と。
大きく心臓が跳ねる。