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□Break The spell
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一瞬で理解した。彼女が何をしているのか。何を祈っているのか。何に縋っているのか。
(悲しみを、食べさせているのか……)
過去の自分が渡した石。魔法だよ、などと言って。
今思えば安っぽい嘘。それでも、あの頃の自分の精一杯が伝わってくる。
ほらね、社さん。違うでしょう?
言えませんけど、彼女は俺の思い出の女の子なんですよ。
俺が捨てた、封印した過去の中に生きる、思い出の女の子なんです。
その事実に引きずられ、ほだされている、それだけなんですよ?
泣き虫で、優しくて、メルヘン思考で、いつも必死に頑張っていたあの子。
きっと今のように、つらいときはあの石を握りしめて耐えて来たんだろう。
そばにいたはずの人々に頼れなかった事実は悲しいことだけど、自分が残した精一杯が、きちんと実を結んでいたんだと思えば嬉しい。
捨てた過去でも、自分を大切に思ってくれる存在に心が暖かくなってしまうのは、当然のことだと思う。
このまま、彼女の気持ちが落ち着くまで待って、あの青い石が彼女に笑顔を戻したらそれとなく近付いて送っていけばいい。
入り口辺りで待っていれば、偶然を装えるだろう。
そう決めてそっと踵を返した蓮の背に、キョーコの「……よし」という呟きが届く。
(終わったのか?)
二階への上り階段に腰掛けているキョーコをこっそり見上げると、彼女は静かな表情で大切そうに石を仕舞い込むところだった。
(まだ……笑ってない)
悲しみの色は残っていないけれど、どこか寂しそうで。
顔を上げたことで見えた涙の跡がそう思わせるのかもしれないけれど、まだ不安そうで。
涙に汚れた顔はいつもより幼くて、『キョーコちゃん』を思い出させる。
「…………」
声は、掛けられない。
あの彼女に声を掛けることができる自分を、俺はもう捨ててしまっている。
彼女を支えてきたのは……今も支えているのは、『俺』じゃない。