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□Last Day of 反抗期
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「至希」
ノックをして声をかけ、それ以上は何も言ってこない父親に至希は戸惑った。
こういうとき、どうしたらいいのか分からない。
何か言ってくれれば応えもできるのに。話し合おう、とか言われたら物凄くウザイけど。
母さんがいれば、なんかホヨホヨ笑って場が緩むのに。
ってか、そう言えばさっき、「父兄参観に行く」とか言ってなかったか?
何を考えているんだろうか。学校を混乱の渦に巻き込むつもりなのか?
参観の授業が、オレが嫌いな数学だから気を遣っているのか?(それならグッジョブ)
自分が、日本で有数の有名人だってこと、分かってないのかこの親父は。
「至希、入っていいか?」
「……勝手にすれば」
ここはオレの部屋だけど、あんたの家なんだし。
本人としては目一杯ひねくれているセリフを吐くと、静かな足音をさせて父親が入ってきた。
ベッドを見る視線が「座ってもいいか」と言っているので、むすっと頷くことで答えにする。
「至希」
「何だよ?」
真面目な声音に、少し驚く。
ドラマの中でよく聞く声だけど、家では滅多に聞かないからだ。
なんというか、似ていると言われるけれど、たしかに似ているけれど、やっぱり違う。
オーラと言うか雰囲気と言うか、まあ一流芸能人として活躍し続けている人間を相手に、いくら息子とはいえ一般人が雰囲気で勝ったらヤバいけど。
っていうかそもそも、似てても全身のパーツがすこぉしずつレベル低いし。
スタイルのバランスとか。顔の造作とか。
だったら全然似てない方がマシ。
だんだんムカムカしてきた至希は、父親が真剣な眼差しで見つめてきていることに気付かなかった。
「至希」
「……え、何」
「父さんは母さんと仲がいい」
「……それが何」
「愛してるし、可愛くて仕方がないんだ」
「……それが何だよ」
知っている。知り尽くしている。世界中できっと自分が一番、『敦賀蓮』と『京子』のバカップルっぷりを見せつけられている。
マネージャーの社さんも、母さんの親友の奏江さんも、結構な被害者だとは思うが自分には及ばないはずだ!
喧嘩すら、イチャイチャに見えるんだぞ!
「至希。父さんは、同じくらいにお前を愛してる」
「……きもい」
憎まれ口に覇気がないのは、父親の、深刻そうとすら表現できそうな真剣っぷりに気付いたからだ。