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□Last Day of 反抗期
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 馬鹿にされた。頭を撫でるだなんて、子供扱いされた。
 一般市民の住宅状況に喧嘩を売っているような家の中、父親の大きな掌の感触を振り払うようにドカドカ進む。
 最悪だ。
 子供がいるとは思えないほど若々しくて綺麗な母親も、妻子持ちでありながら(しかも四十間近)抱かれたい男No.1に君臨し続ける父親も。
 その両親が、子供の自分から見ても恐ろしく魅力的にお似合いなことも。
 芸能界、ベストパートナー・オブ・ジ・イヤーに選ばれて当然なほど、名実も公私も支え合っている二人も。
 そもそも、両親揃って芸能界トップクラスに立っているという事態が最悪だ。
 そして何より、その両親から与えられた自分の名前が最悪だ。
 至希。敦賀至希。
 なまじ顔が『敦賀蓮』に似ていることもあって、小学校からずっと、何をしても「それがツルガ式かよ」と言われ続け!
 なおかつ中2で初めて出来たカノジョが、別れた後にふと冷静な目で見てみると、どことなく面差しが母親に似ていたことが!!
 そのとき咄嗟に「でも母さんの方が綺麗だよな」と思ってしまったことが!(妻至上主義の父親に似ていて! 綺麗で当たり前なんだよ女優なんだし!)

 名前が憎い。
 やることなすこと、『ツルガ式』にされるようで!
「敦賀至希なんて名前、大っ嫌いだぁぁぁぁ!!!」



「へえ……名前が嫌いなのか」
 大きなその声は、広い家いっぱいに響き渡っていた。

 今夜はキョーコが地方ロケで留守なので、息子と二人だ。
 キョーコは食事をきっちり用意していってくれたから温めるだけでいいのだが、息子が来ないことには食べるわけにもいかない。
 けれど反抗期な息子は、同じ食卓につくことを拒んでいる様子だ。
 自分は一食や二食とらなくても構わないが、育ち盛りの息子には食べさせなければならないし、何よりバレたらキョーコが怖い。
「……あれ、か?」
 蓮は持っていた。現状を打破できるであろう、最強のワイルドカードを。
 だがそれは、あまりに危険な賭けだ。
 もし失敗すれば、今日まで築き上げてきたものが崩れ落ちる恐れすらある。
 しかし、それでも、どうしても。

 親として……いや、男として、やらねばならないときがある───!!

 並々ならぬ決意を胸に、蓮は二階の子供部屋へ向かった。
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