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□始まりはこの日から。
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 ほんあー ほんあー ほんあー



 聞こえてきた元気な産声に、分娩室の外で待っていた至希は思わず立ち上がった。

「……今の……」

 意識せず拳を握り息を飲む至希のもとに、分娩室から出てきた看護士さんが笑顔で告げる。

「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」

 おめでとうと言うのなら、母子共に無事なのだろう。
 それはつまり、諸手を挙げて喜んでいい事態なわけだ。

「やっ……たぁぁぁぁ!」

 女の子。
 つまり妹。
 要するに母似(願望)。

「グッジョブ母さん……ナイス生み分け……!!」

 良かった。本当に良かった。
 生まれるまでのお楽しみにしたい、とのキョーコの意向に従い、今まで赤ん坊の性別は分かっていなかった。
 おかげで、母から妊娠を告げられてからの半年、至希はずっと「弟だったらどうしよう……」と悶々としていたのだ。

 ツルガ式と呼ばれるのもずいぶん慣れたし、もう気にならないと言っていい。
 だがこの境地に達するまでには苦労もあったし時間もかかった。
 生まれたのが弟で自分と同じように上から下まで父親の遺伝子だけしかないような出来だったら、それは可哀想すぎる。
 こんな道は歩かないでほしいと思っていたので、女の子なら万々歳だ。

「まあ……万が一、億が一、兆が一、親父似だとしても……女の子ならな」

 可愛くはないかもしれないが、美人になることは間違いないだろうし。
 女の子なら、ツルガ式はあり得ないわけだし。

 問題ないない、と御満悦の至希に、知らせに来てくれた看護士さんが言う。

「中にお入りになりますか? 今でしたら写真撮影もできますよ?」

「写真って……可能なんですか!?」

「はい。希望されるご家族も多いですし、後処置までの短時間ですけど」

「ぜひともお願いします」


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