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□出来過ぎ息子のプレゼント。
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「頼みがあるんだ」

 そう至希が蓮に切り出したのは、四月最初の週末だった。

「頼み?」

 何だろう、欲しい物でもあるのだろうか。
 今まで至希が何かをねだったことはないが、まあもう高校生だし、小遣いで買えないような高額な物に興味を示してもおかしくはない。
 珍しいことだし、よほどの物でない限り買ってやろう。

 そんなことを考えている蓮であるが、世間一般の高校生が欲しがる物で、至希の手が届かない物などそうそうない。
 敦賀家、息子への小遣いは月の始めに銀行に振り込まれることになっている。
 金額は定まっていない───というか、基本的な金額の他に、前月の迷惑料が加算されるのである。
 蓮の忘れ物を届けたりだとか。
 キョーコの代わりに壽の世話をしたり(保育園のお迎えとか)だとか。
 そんなこんな、本来ならやらなくてよかったことへの報酬がプラスされるのだ。
 ちなみに、そんな迷惑はしょっちゅうである。妙なところで固い両親は、『それを業者に頼んだら幾ら掛かるか』で計算する。
 よって、多いときは月に十数万単位で増え続ける。
 無駄遣いこそしないものの、欲しいとなればそんな小遣いをさらにコツコツ貯める必要があるような物に手を出すので、友人が驚くほどに高額な物を持っていたりする至希なのである。

 だが、蓮の予想は外れ、至希の頼みは小遣いではなかった。

「母さんが今やってる映画の脚本、手に入らないか。母さんには内緒で」

「……脚本?」

 何とも予想外なおねだりだ。
 しかもキョーコには内緒で、とは。

「手に入れることはできる。とは言っても、分かってるだろうが、本来は関係者以外の目にふれさせていい物じゃないぞ」

「もちろん分かってる。読んだ内容を漏らしたりは絶対にしない」

「ふむ……」

 息子がそう言うなら信用しよう。
 ならば問題は───というか知りたいことはあと一つ。

「お前、それをどう使う気だ?」

「ああ、……単純だとは思うけど、」

 少し言いにくそうに前置きをしてから息子が語った内容に、蓮は目を丸くした。

「分かった。そういうことなら、できるだけ早く手に入れてやる」




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