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□敦賀家の七夕の翌日。
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飾るだけ飾ってそのまま放置された笹をベランダから回収する至希。
「ったく……! 天気が崩れるから出しっ放しにするなって言ったのに」
一番空が綺麗に見える場所だからという理由で、両親の寝室のベランダに飾られた笹。
別に禁止されているわけではないが、普段ならなるべく立ち入らないそこに足を踏み入れていることで、至希は少し緊張していた。
「短冊が飛んでご近所に見られたりしたら恥ずかしいだろが……。ってか、二人とも芸能人っていう自覚がない」
今では日本で知らぬ者はいないんじゃないか、というほどに有名な俳優と女優の夫婦なのだ。
そんな二人の短冊など、週刊誌にはさぞかしいいネタだろう。
しかもその内容が、砂を吐きそうな願い事だったりしたら尚更だ。
「……もう飛んでたりしないよな?」
ちょっと不安になった至希は、萎れかけている笹に飾られた短冊を確認する。
ちっちゃな手形を赤い絵の具でつけたのは、まだ字の書けない妹の壽の短冊。
『家族がずっと仲良く幸せに過ごせますように』
この字は母だ。
『家族の健康と夫婦の円満』
間違いなく父だ。
けれど、まあ予想していたよりよっぽどマシな内容である。
『家内安全』
……うん、自分。
思春期の青少年としてはどうだろう、この枯れ具合。
「まあ、とにかく全部あるし……、あれ?」
もう一枚ある。
てっぺんもてっぺん、至希がめいっぱい背伸びしても届かないだろうほどの高さに飾られた短冊。
「……親父?」
あの高さに手が届くのは、一家の大黒柱である蓮だけだろう。
誰の目にも付かなかった短冊だが、こうして笹を回収してしまえば問題なく読める。
「……う゛!?」
『愛する大切な我が子・壽の愛を守る。
打倒至希!!』
「……燃やそう」
自分はいつから『愛する大切な我が子』から脱したのだろうか、と。
非常に馬鹿馬鹿しい気分になりながら、願いなのか決意なのか呪いなのか分からない、けれど非常に本気っぽいオーラの短冊を粉々に破った至希は、そのまま台所のフライパンの上で焼却処分した。
「イベントなんて大嫌いだ……」
こうして、敦賀家の一人息子は日々枯れていくのであった。
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