スキップ・ビート!
□シャッターチャンスはone&only
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ィィ ン───
耳に届いた小さな電動音に、リビングのソファーで寛いでいた至希は素早く顔を隠した。
腕で顔をカバーしながら床に転がり、俯せ状態になったところで胸ポケットから取り出した眼鏡を装着する。
そうしてからキッと睨み付ける先には、物陰から小型のデジタルカメラを構える父、蓮。
先ほどの電動音はピント合わせの音だ。フラッシュもシャッター音もなかったから、まだ撮られてはいないだろう。
「何やってんだ親父!」
「動くんじゃない、至希」
「やめろって言っただろうが、隠し撮りは!」
「お前が家族写真を拒むからだ」
「だからって、家庭内で隠し撮りを狙うな! 家でくらい落ち着かせろよ!」
「家の外のお前は隙がなさすぎる。興信所に頼んだのに、ことごとく逃げ切っただろう。プロが『無理です』と言ってきたぞ?」
息子を忍者に育てた覚えはないんだが、と真顔でため息をつく父親に、至希のこめかみに血管が浮き上がる。
「ここしばらく感じた妙にしつこい気配は、親父の差し金か……!」
登下校も、習い事への行き来も、いつだってどことなくつけられている気配があった。
幸か不幸か、まず間違いなく不幸だが、育ちのせいでそういった気配には敏感だ。
蓮もキョーコも、息子をメディアに露出することはしなかった。
両親が何を仕事にしているにしろ、至希はあくまでただの子供だからと、生まれたときからこっち、名前も性別すらも正しく明らかにしたことはない。
とは言え、日本で有数の有名夫婦だ。
至希を追い掛けるわけではないにしろ、両親が幼稚園や学校の行事に参加するたびに記事になるような生活は、自然と至希の感覚を研ぎすませた。
「一般人の持つスキルじゃないだろう、それは。カメラの気配に気付くのも、いつもお前が一番だし」
そう、例えば家族旅行。
休暇に浮かれリゾート地に浮かれ、いつもより少しだけ大らかになっている両親は、外でもイチャイチャする。
それでも至希が同行しているときは、決してパパラッチされたことはない。
あまりの見事さに、ローリィがボディガードたちの講師にならないかと言ってきたことがあるほどだ。
「誰のせい……って、いや、それはいい。それは仕方ない。うん、不可抗力だ」
両親が芸能人なのは仕方ない。自分が生まれる前からのことだし、そもそもそうでなければ自分は生まれていない。
喜びまくりそうだから決して本人たちには言わないが、二人の仕事を尊敬もしている。
しかし、しかしだ。
「俺が写真を拒むのは、明らかに親父のせいだからな!」
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