スキップ・ビート!
□1・2・shoot!
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「関係者以外は立ち入り禁止です」
さり気なく、すかさず隙なく進路を塞いでくるガードマンに至希はこっそりため息をついた。
それはそうだ、分かっているとも。
自分だって、こんなところに来たくもない。
こうして足下まで来てみると、最上階を見上げるためには首の骨を危険に晒す必要があるほどに巨大な建造物。
正面玄関には暇そうな(としか、至希には思えない)追っ掛けの人々。
きっと……いや確実に、この何割かは自分の父親の追っ掛けだ。
そう思うと、ファン心理やら健気な想いやら、そんなもの全部どうでもいい。
大声で叫びたい。『あれはただのバカ親父だ!!』と。
事の起こりは二時間前。
映画撮影で一週間ほど留守にすると言って出ていった父親から、携帯に電話が掛かってきた。
曰く、『長期用のアルバムを忘れて来てしまった。テレビ局まで持って来てくれ』だ。
仕事関係の物なのかと部活を早退して帰宅し、言われたとおりの引き出しを開けてみれば、そこにあったのは卒業アルバムのような大きさで立派な装丁が施された一冊。
ちなみに表紙には、金字で《愛》。
タイトルだけで中身は分かったような気がしたが、それでも一抹の期待を胸に表紙を開き───
そこに広がったワールドに目眩がした。
おそらくは出会った頃であろう、十代後半らしきキョーコ。
仕事中なのか、和服だったりドレスだったり、髪が金髪だったり長髪だったり。
さらには明らかに隠し撮りっぽい、食事中やメイク中の物。
ページを進めると時間も進み、キョーコが少しずつ大人になっていく。
だんだん、蓮と一緒に写っている物も増えていった。
「…………」
燃やしてしまおうか。
本気でそう考える。しかし、母の写真を燃やすというのはどうにも躊躇う。
「いっそ親父を燃やすか……」
ぶつぶつ言いながら最後のページをめくり───、
「っぎゃぁぁぁ!」
目に飛び込んで来たものに、反射的に本能的に、叫んだ。
「ななななな……」
見開き一杯、それこそ大々的に2ページ分の面積をかけた、キョーコの寝顔が。
「ああああああああああいつは…………!」
コロス。
固く決意したとき、ズボンのポケットで携帯が震えた。
また親父からだったら殺人予告してやろうと思いながら出ると、番号は蓮だったが社からで。
「至希くん!?」
「社さん……また携帯クラッシュ?」
「いやついうっかり、ってそうじゃなくて! 今どこ!?」
「家ですけど……」
「じゃあアルバム見つけた!?」
「はあ……まあ」
「よかった! 悪いけど即行で届けて至希くん! じゃないと……じゃないと!」
それからわずか三十分後、至希は指定されたテレビ局に到着した。
プロの仕事人、敦賀蓮。
鉄壁の仕事人、敦賀蓮。
けれどその内実は、妻の写真を忘れただけでロケを放り出そうとするバカ男。
頼むから〜! と泣いて懇願する社に、至希は負けたのである。