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□mutual watch!中編
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「最上くんとの一件については力になれんぞ」

 と、珍しくも苦々しい表情でローリィ宝田は言った。
 蓮と社が連れ立って社長室に入った途端の一言である。

「悪いが、用がそれなら諦めろ」

 ひらひらと手を振るその様は、『お手上げ』だと言っているようで。
 その様子から、どうやらキョーコにそれなりの説得は試みてくれた後らしいことが分かる。

「最上さんが社長に会いに来たのはいつです?」

「10日前、くらいか? お前の空回りプロポーズから数日、ってとこだな」

「からまわ……って」

「キョーコちゃん、素早いなぁ……」

 憮然とする蓮、呆然とする社。
 そんな二人に手振りで「座れ」と示すローリィ。

「本来なら言うまでもなくお前の味方なんだけどな」

 何と言っても自称“愛の伝道師”だ。逃げるキョーコより、愛を押す蓮の側につくに決まっている。
 しかし現実、ローリィはキョーコ側だ。

「どういうことですか社長」

「お前らのことは知ってたし、最上くんからも大体のところは聞いた。なあ、蓮……」

「はい?」

「お前、可哀想になぁ…………」

「思いきり真顔でしみじみ言わないで下さい。惨めな気分になります」

「お前も真顔で反論するなよ、悲壮感ありすぎだ、同情しちまうじゃねぇか」

「同情するより協力してください」

「そういや昔、『同情するより金をくれ』ってドラマなかったか?」

「それは『より』じゃなく『なら』じゃなかったでしたか? それにドラマじゃなくて、作中の決め台詞だったような気が……って、そんなことはどうでもいいんです!」

 どこまでもズレていく話の方向に、蓮はやっと気付いた。

「そんなことよりも、どうして最上さんの肩を持つんです? 中立ならまだしも、向こうにばかり力を貸されては困るんですが」

 LMEに所属している者同士のことで、どちらかだけに社長の助力がつくというのは実質的に勝敗が決したようなものだ。

「ふむ……。蓮、お前、俺が『諦めろ』って命令したら最上くんを諦めるか?」

「いいえ。……それは、最上さんの要請ですか?」

 キョーコが、蓮に諦めるように言ってくれと頼んだのだろうか。
 もしそうなら。自分の口からではなく、他人の───それも圧倒的に上位にいる者の口から伝えてもらおうとしたのなら、それは。

「そんなに疎まれているんでしょうか?」

 想いを、拒否どころではない、拒絶していることになる。

「質問に質問で返すなって教わらなかったか? ……最上くんはそんなこと頼んでない。お前、他人にそんなこと頼むような無責任な女に惚れたのか?」

「! いいえ」

 蓮の即座の否定に、ローリィは満足げに深く頷いた。
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