箱庭の恋歌

□挿話・2
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 夢を見る。


 真っ暗な空の下、地面にぺたりと座り込み。
 真っ黒な土の上、ぬるい涙をぽたぽた落とす。

 月もなく、
 星もない。

 それでもほのかに明るいのは、落ちた涙が光っているから。

 月の光の残滓のように。
 星の光の名残のように。

 分かる。
 ああ、分かってしまう。
 夢だと分かる夢の中。
 どうして涙が光るのか。


 神田。

 ねえ神田。

 涙が止まらない。

 前にリナリーが言ってた。

『涙は記憶を溶かしてあふれるモノ』だ、って。

 それなら、きっと。
 きっと、この涙は、あなたとの記憶を溶かしたモノ。

 あなたを忘れるためのモノ。

 だからね、神田。

 この涙はきっと、どんな蜜より甘いモノ。

 あなたとの思い出を溶かしてあるなら、どんな夢より優しくて、どんな光より幸せなモノ。


 私はこんなに恵まれてた。

 私はこんなに幸せだった。

 私はこんなにも満たされていた。


 あの腕の中は、なんて呼吸がしやすかったんだろう。



 神田。

 ねえ神田。

 神田、神田、神田神田神田…………


 ありがとう。

 好き。大好き。


 ごめんなさい。


 ───さようなら。





 夢だと分かる夢の中。

 止まらない涙の夢を見る。


 どんな夢より優しくて、
 どんな光より幸せな、


 そんな記憶を捨てる夢。


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