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□始まりはこの日から。
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 これはいい。
 最高にいい。
 父のように立ち会うことはできなかったが(母は来てもいいわよと言っていたが、何となく恐ろしく、何より父の無言の殺気に負けた)、生まれたての瞬間という貴重な時間を共有できるだけで満足だ。

 ウキウキとカメラを起動させつつ、手指の消毒を行おうとした至希の目の前に……

「……何だよ親父」

 立ち塞がったのは蓮だった。

「入るな至希。回れ右だ」

「はあ?」

「端的に言えば出て行け」

「……おい」

 衛生を保つためか術衣のようなものを着込んでいるのだが、どうやら合うサイズがなかったらしい。丈は短いし袖も足りない。
 まあ、こんなモデル体型に合わせたフリーサイズなどあるはずがないのだが。
 いや問題はそこではなく。

「とりあえずどいて」

 処置を始めるまでの短時間しかチャンスはないのだ。
 生まれたばかりの妹を目に焼き付け、写真の一枚も撮らねば悔やんでも悔やみきれないことだろう。
 さあ急げ、と一歩踏み出した至希を、再び蓮が阻む。

「……なに」

 こうなると、さすがにイラッとする。
 時間がないと分かっているだろうに。

「あれだ、至希。父さん家で鍋に火を掛けっぱなしだった気がする。確認してきてくれ」

「いや、戸締まりして出て来たの俺だし」

「着払いの宅配便が今まさに届いている気がする。受け取りに行ってくれ」

「不在伝票で済むだろ」

「キョーコがプリンを食べたがってる。今すぐ買ってきてくれ」

「分かった即行で行ってくる、だからとりあえず妹の顔を、」

「ダメだ帰れ引き返せ日本から出るんだ」

「はぁ!? ちょっ、親父、マジで時間ないんだけど」

「よし至希、ちょっと留学してこい世界を見てこい」

「意味不明だ」

「留学が不満なら遠洋漁業だ。マグロでもカニでもいい、年単位で行ってこい」

「…………マジで何なんだ」


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