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□北の大地にロマンを求め。
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「何だったんだよあれはぁぁぁぁ!」

 帰宅一番、至希の怒号が響いた。
 キョーコは仕事で家にはおらず、大荷物を抱えて帰った息子を出迎えたのは父親の蓮一人。

「あれ? って何のことだ?」

「北海道にいただろうが!」

「何で知ってる?」

「あ、あ、あんな大騒ぎを起こしといて、分からないわけあるかぁぁぁ!」

 翌日、いや当日の夕方にはもう雑誌やら新聞やらの一面を飾っていた『ラブラブデート』!
 恥ずかしいことこの上ない、『アーンvv』だの『うふふあはは』だの!

 視界が奇妙に歪んだのは、厚すぎるガラスのせいか、それとも涙のせいだったのか。
 もう、分からないほどだった。

「だいたい、何で北海道なんかにいたんだよ! 家でイチャイチャしてればいいだろが! その方が騒ぎにならないだろ! 出無精のくせに……!」

「ふむ。それはな、至希。重大な理由があってのことなんだ」

「……重大な?」

「そう。男のロマンと言うか野望と言うか、むしろ夢! この家では決して果たし得ない壮大な物語を起こすべく、父さんたちは北の大地に飛んだんだ」

「……何それ」

 言うことが大袈裟で、却って嘘くさい。
 嘘くさいけど、なんか重大っぽい。

 若干の警戒心をにじませた目で見てくる息子に、蓮は頷いた。
 頷いて、重々しく言った。

「お前もいつか分かるだろう。和の魅力に」

「……は? 和? って、和風の和?」

「そうだ。温泉・浴衣・畳」

 ああ、イヤな予感がする。
 日本で一番いい男とか言われてる人間の正体が、じつは日本で一番バカな男なんじゃないかと思わされる瞬間が近付いている気がする。

「……要するに。何なんだ?」

「和式布団で、浴衣で、夫婦のいとなッ……!」

 言い終わることはなかった。
 中年期になっても変わらず引き締まったラインのままの腹筋に、息子からえぐりこむような右フックが見舞われたのだ。

 いい感じにヒットしたらしく、玄関にズルズル崩れ落ちていく蓮。
 護身のために格闘術を習っている息子の渾身の一撃は、さすがにきつかったらしい───


 そんな父親を置き去りに至希は自室へ駆け上がり、荷物の中から家族への土産を引っ張り出す。

 そしておもむろに貪り出す『白い恋人』。

「あんなの……あんなバカは……!」

 むしゃむしゃむしゃむしゃ。

「『どす黒い変人』で充分だぁぁぁ!」






Fin
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