捧げ物小説 2
□輝夜
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日の光の満ちた内裏の庭では、華やかな宴が催されていた。
舞台を見ながら、シンは盃を傾けていた。
隣に、アスランの姿はない。
他の男に姿を見られないようにと、シンはアスランに、出席を禁じていた。
舞台の端に、一人の姫が上がる。その者は、横笛を吹き始めた。シンは、聞いたことのない曲だと思い、奏者に注目した。
……レイ?
アスランに仕えているレイが、鮮やかな唐衣を着て、笛を吹いている。
続いて、舞台の中央に、もう一人の姫が進み出た。開いた扇で、あるいは、袖で、たくみに顔を隠しながら、舞う。
翻る、白い衣。その袖から生まれた、かすかな風が、花の香を運ぶ。
軽やかな足運びは、天を歩いているよう。
舞台のそばにいる公達も、殿舎の縁側から見ている女房達も、皆、舞台に惹き込まれていた。
笛の音がやみ、姫は一礼し、静かに舞台を下りる。それを合図に、辺りは騒然とした。
「どちらの姫でございましょうか!今の方は!」
自分のそばで騒ぐ者に、シンは、胸の内で、つぶやく。
俺の北の方です。カグヤ姫、あるいは、輝夜の女御と呼ばれています。真実の名は、アスラン。
「顔はわかりませんでしたが、あの匂い立つような色香。舞の美しさは、この世のものとは思えませんでした!」
アスランは、もともとは、月の者。地上の者ではありませんでしたからね。
……なぜ、舞台などに。
シンは、今すぐ、アスランのそばに行って尋ねたい、衝動をこらえた。
他の者達とは違う目で、舞台に見入っている者がいた。
年若いが、世俗を捨てた尼。
尼は、帝の異母弟のそばで、舞台を見ていた。
異母弟は、尼にささやいた。
「あれは、輝夜の女御だ。カグヤ姫だよ。他の者は気づいていないだろうが……いや、さすがに、兄宮は気づいておられるか」
弟宮は、女御に、手を出そうとして失敗したことがあった。
女御に飾り太刀を喉に当てられた時は、恐ろしかったが、間近で見た美しさは、胸に焼きついていた。
尼の目には、涙が浮かんでいた。
輝夜の女御様が、アスラン様だったとは……。