捧げ物小説 2
□卒業
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シンは一人で、剣道の朝練をしていた。防具はつけずに、袴姿で竹刀を振る。
剣道場を、広く感じる。
誰よりも早く練習に来ていた先輩が、今はいない。三年生はもう、引退してしまった。
入学して間もない頃、シンは、どのクラブに入ろうか迷って、あちこち見学して回った。
剣道部は、その一つだった。
剣道場で行われていた練習試合。
すっと、一人の先輩が竹刀を構えた瞬間、空気がぴんと、張り詰めたように感じた。
流れるような足さばきが綺麗で、重そうな防具を身につけているのに、動きは軽やかだった。
打ち合う音を聞きながら、胸が高鳴った。剣道に一目惚れしてしまった、剣道部に入ろう。そう思った。
実は剣道ではなく、その先輩に一目惚れしてしまったのだとシンが気づいたのは、その先輩が勝った後。
すっと、面を取って、汗を拭いたその人に、試合を見ている時と同じくらい、胸が高鳴ってしまった。
入部して、親しくなれたのに。
卒業、してしまうんですね。
「俺が引退したから、シンが一番乗りなんだな」
入ってきたアスランの姿に驚いて、シンは、竹刀を落としてしまいそうになった。
「アスランさん……どうして」
「引退した人間が来ちゃいけないっていう、ルールはないだろう?卒業前に、もう一度、ここを見ておきたくて」
思い出の、たくさんある場所。シンと、出会った場所。