捧げ物小説 2

□求めるもの
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 シンは職員室のドアを開けた。
「失礼します。ザラ先生」
 担任である、数学教師のアスランに、声をかける。
 アスランは、一瞬、びくりと肩を震わせた。

「先生、さっきの授業で、よくわからないところがあって……教えてもらえませんか?」
「あ、ああ、いいよ……」

「アスカ、お前、いつからそんなに、勉強熱心になったんだ?」
 アスランの隣に座っていた、英語教師が、感心したように言う。
「ザラ先生が親切に教えてくれるから、やる気になったんですよ。先生には、本当に、よくしていただいています。ねぇ、先生」
 シンは、アスランに微笑んだ。アスランは、シンが開いている教科書に目を落とす。

 教科書に書き込まれた、小さな文字を見て、凍りつく。
 『今夜、来てください』
 思わず、シンの顔を見る。シンは、拒絶することを許さない目で、アスランを見ていた。
 これは、命令。


 アスランが初めてシンの家を訪れたのは、シンが欠席した日だった。
 インターホンが鳴り、シンはパジャマ姿で出た。
「どうしたんですか、先生?」
「これ、今日授業で配ったプリント。テストも近いし、重要なところだから、早く渡したくて」
「それで、わざわざ?」
 シンはプリントを受け取り、アスランの顔をまじまじと見た。
「家、近いし。もう、三日も休んでて、気になったから……体調はどう?」
「熱は昨日下がりましたし、もう元気ですよ。こんな格好ですけど、今日は正直言うと、ただのさぼりです」
「そう。よかった」
「よかったとか言っちゃダメでしょう?さぼってる生徒はしからないと」
「元気になったのなら、よかったなと思って。じゃあ、俺はこれで」
「待ってください。あがっていきませんか?」
「え……?」
「風邪がうつるのが、嫌でなければ。コーヒーくらい、淹れますよ」
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