捧げ物小説 2
□祈り
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シンは、銀細工職人の父親の横で、作業をながめていた。
以前は父親に教わって、自分も作っていたのだが、作らなくなってから、もうずいぶんたつ。
店のドアが開く。客かと思ったが、級友だった。
シンは手招きされて、店の外に出る。
「なに?」
「今日の村祭り、俺と一緒に行かないか?実は、お前のこと紹介してほしいっていう子がいてさ」
「……行かない」
「かわいい子だぞ」
「興味ない」
「……まだ、アスランのこと、引きずってるのか?」
「その名前を口にするな」
「いい加減に忘れろよ」
「忘れたさ……」
「だったら、指輪、はずせよ」
「抜けなくなっただけだ」
シンは級友に背を向けて、店の中に戻った。嘘つき、という級友のつぶやきが聞こえた。
指輪をはずそうとしたことはある。でも、指が震えてしまって、はずせなかった。
忘れたいのに。憎みたいのに。
気がつけば、過去にすがるように、思い出している。アスランと、共にいた日々を。
二年前、シンは、恋人であるアスランと、湖のそばにある、神門の前に立っていた。
「この向こうに、本当に、神様がいるのかな」
「きっと、いますよ」
朱色の壮麗な神門の中に入れるのは、選ばれた人間だけだという話だ。門をくぐろうとすると、見えない壁に阻まれる。
結界が存在するのだから、きっと、神も存在する。
「どうして、ここに呼び出したんだ?」
「中には入れませんけど、神様のそばで、渡したいものがあって」
シンは、銀の指輪を差し出した。
「やっと、納得できるものが作れたんです。あなたに、つけてもらいたい。受け取ってくれますか?」
「ありがとう」
アスランは受け取って、自分の指にはめながら、シンの指を見た。
シンの指にも、指輪がある。
「それ、これと、おそろい?」
「はい」
「結婚指輪みたいだね」
「そのつもりです」
「え」
「つけていてくれませんか……一生」