捧げ物小説 2

□待宵
1ページ/5ページ

 新月の夜、寝所では、女御が帝の腕の中で暴れていた。
「もう、嫌だ。疲れた!」
 帝は、女御の頭の、うさぎの耳を、なでる。
「そんなこと、言わないでください」
「なでるな。や、もう、しつこい……」
「朝までに、もう一度しましょう……アスラン」
 ただでさえ、月の光を浴びられず力が出ないのに、甘くささやかれると、ますます力が入らなくなる。
 シンの思い通りになってしまうのは悔しいと思いながらも、アスランはシンを受け入れた。

 朝になり、アスランは、起きて髪を整えた。うさぎの耳は消えている。
 着物をはおって、シンの寝顔を見た。
 無茶な抱き方をされた腹立たしさより、愛しさが勝る。

 あまり頻繁に来るなと、シンには言っているけれど、待っているのだ、自分は。
 本当は、……新月の夜でさえも。
 シンはかわいいと言うけれど、物の怪のように、恐れられても、おかしくはないのだ。人の頭に、うさぎの耳など、はえるはずがないのだから。
 月の者ではなくなったが、この体は、地上の者とも、少し違う。ひどく不完全な存在。

 でも、いい。シンと、こうして一緒にいられるのなら。


「『明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな』」
 アスランは、つぶやいた。

 夜が明ければ、いずれまた日は暮れて、君と夜にまた会える。わかっていても、なお、一度君と別れなければならないのが、恨めしい夜明けです。

「……それが、あなたの気持ち?」
「起きたのか」
「それと、似た歌、もらったこと、ありましたね」
「覚えてる?」
「はい。あなたからもらった文は、全部まだ持っていますよ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ