捧げ物小説 1

□ただ一人を映す瞳
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 アスランは、高熱に苦しみながら、執事が差し出したグラスを見た。赤い液体の、さびた鉄のような匂いに、アスランは眉を寄せた。
「お喜びください、アスラン様。赤目を一匹、捕らえることができました。地下牢に閉じ込めております。これをお飲みください」

 赤目……。では、これが、万病に効くといわれている、妖魔、赤目の血か。

「いらん……」
「お口に合わないでしょうが、お薬とお思いになって」
「いらんと言っている!……地下牢だと?赤目は、罪を犯したわけではないだろうに……」

 アスランは、執事を叱りつけ、身を起こし、地下牢へと向かった。足元がふらつき、壁に手をついて、休みながらも、たどり着いた。
 牢屋番から鍵を受け取り、さがらせる。
 アスランは鍵を開けながら、格子越しに、中をのぞいた。
 執事や牢屋番が、なぜ、ここに入ることを強固に反対しなかったのかは、すぐにわかった。

 赤目は、アスランの姿を見て、おびえた。

「……来るな…………もう、嫌だ。痛いのは、痛いのはもう、嫌だ。嫌だ……っ」

 年頃は自分とそう変わらないようだが、震える姿は弱々しく、小さな子供のようだった。
 拘束具はいっさい、つけられていなかった。必要ないと判断されたためだろう。
 
 赤目は、その赤い目で見ただけで、田畑の作物の養分を摂取することのできる妖魔。しかし、人間と同じように物を食べることもできる。人間以上に学識深く、様々なことに精通しており、自分達で作物を育てることも、狩りをすることも可能だ。人間に害をなすことは、稀だった。
 赤目は野山に隠れ住む。その血が目当ての人間は、赤目を見つけると肌を刃物で傷つけ、その血を奪う。傷はすぐにふさがる。何度でも、血は採れる。

 アスランの……人間の姿を見た途端、赤目の中で、忌まわしい記憶が蘇る。
 両親は、大人の妖魔の心臓を食べると寿命が延びると信じた人間に、殺された。心臓を取り出されては、妖魔でも生きてはいけない。
 生き残った自分は、薬としての血を求められた。何度も、皮膚を傷つけられた。すきを見て逃げ出し、隠れ住んでも、また違う人間に見つけられ、繰り返し、繰り返し……。
 
「……あ……ああ、……あ、嫌だ。来るな!やめろ、やめろ、うわああぁぁっ!」
 
 牢に入り、近寄ってくるアスランに、赤目は悲鳴をあげた。アスランは、刃物など持っていないのだが、持っているかどうかを、確かめる余裕はない。
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