短編小説

□永久の蜜月
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 シンは、アスランの体を、直視しないようにしながら、拭き清めた。
 
 重い病ではないが、帝にうつすわけにはいかないから、離れていてくれと、アスランは言った。しかし、シンは、自分は体が丈夫だし、あなたと離れていては逆に病んでしまうと説き伏せて、看病していた。
 咳は出なくなり、熱は、まだあるものの、だいぶ下がった。

 快方に向かい、安心すると、シンは、アスランの、熱で上気した頬や、うるんだ瞳に色気を感じて困った。
 なめらかな肌を拭きながら、ここしばらく体を重ねていないなと考える。

 くすっと、アスランは笑い声を漏らした。
「なんですか?」
「初めて会った日、シンは、そういう顔をして、俺を着替えさせたのかな、と思って」

 夜盗を倒した日、血のけがれで失神したアスランを、シンは介抱し、着替えさせた。

「そういう顔って、どういう顔ですか?」
「欲情を抑えようとして、葛藤する顔」
 艶のある声で言われて、シンは、胸が高鳴った。

「……欲情を煽らないでください。あなたの病が完治するまでは、あなたを抱くわけにはいかないんですから。あなたに、負担をかけないように……」
 赤くなりながら言うシンに、アスランは微笑んだ。

 愛しいと感じるのは、もう、何度目になるのか、わからない。最初に愛しいと感じたのは、いつのことだったのだろうか。御所で、シンと話した時だろうか。いや、夜盗を倒しているシンを見た瞬間だったのかもしれない。
 シンは、一人で、夜盗を倒していた。致命傷にならぬよう、加減しているのだと、見て取れた。勇気がある人だと思った。そして、優しい人だと。
 御所で、帝になったいきさつを聞いた。検非違使の真似事をした理由を知った。アスランが知っていた帝、月の帝とは、シンはまるで違っていた。
 月の帝は、月の民の上に君臨し、見下し、自分が尊ばれて当然だと思っている。
 シンは、民を見下したりしない。民の安寧のために力を尽くしたいと願っている。シンのような人こそ、帝位にふさわしい。

「明日、俺……公務休んじゃ駄目ですか?時間がかかって、こちらに来るのが遅くなりそうだから、嫌なんですけど……」
「……前言撤回、かな」
 帝位にふさわしい、って思ったのに。
「え?」
「なんでもない。主上、明日はただの公務ではなく、大事な宮中行事がおありのはず。それをおろそかになさるような方は、わたくし、帝とも夫とも、認めませんけど、いかがなさいますか?」
「すみませんでした。ちゃんと、こなしてきます」
「うん。そうしてくれ」
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