短編小説

□催眠なんていらない
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 さっきからアスランは、マイクロユニットを作っている。床にパーツが散乱している。

 シンは、アスランの横に座って話しかけるが、アスランは、うん、とか、ああ、とかばかりで、ちゃんと返事をしてくれない。
 シンは退屈したが、自分の部屋に帰る気にはなれない。

 シンは、ナットとコードを手にした。細いコードをナットに通して、ぶらぶらと揺らす。
 小さい頃友達と、催眠術がかかるか、試したことを思い出す。
 テレビかマンガか、なんの影響だったのかは忘れたけれど、穴の開いた硬貨に糸を通して揺らし、だんだん眠くな〜る〜って催眠をかけようとして、全然効果がなくて、がっかりした覚えがある。

 ぶらぶらとナットを揺らし続けるシンを、アスランは手を止めて見る。
「なにしてるんだ?」
「いえ、催眠術をね、かけようとしたことがあるなって思い出してたんです」
 シンはアスランの目の前で、ナットを揺らした。

「あんたは、だんだん眠くな〜る〜。……なんて、こんなのきくわけないですよね〜」

 アスランが目を閉じて、こてんと横に倒れた。す〜っという安らかな寝息。

「……って、ええっ!?ちょっ!マジですか!?」
 シンはアスランを揺さぶる。
「ん……あ、ああ。俺、寝てたか……」
 アスランは目をこすりながら起きた。
「どう見ても寝てましたよ」
 こんなちゃちな催眠にかかるなんて、アスランという人間は、複雑そうに見えて実は単純なんだろうか。

 催眠にかかりやすいアスラン。あれ?これっておいしくないか?

 シンはアスランの前で、再びナットを揺らす。
「あんたは俺を、好きにな〜る〜」

 シンはアスランの反応を待つ。期待に胸が高鳴る。
「…………なんだ、それは」
「え。……これは、あの、その……ええと、催眠、かかりませんか」
「バーカ」

 冷たい一言。シンはショックを受けた。持っていたものを、ぽとりと落とす。

 アスランはあきれたように、ため息をついた。
「シン、どうせ催眠かけるなら、俺を嫌いにな〜る〜って言えよ。そうじゃないと、かかってるのか、かかってないのか、わからないじゃないか」
「え……」
「まぁ、嫌いになるように言われても、たぶんきかないと思うけどな。さっきのは元々眠かったからきいたんだと思う。こういうのは、意思の強さと関係してるんじゃないか」

「俺のこと、すごく好きって言っているように、聞こえるんですけど」
「そう聞こえたなら、その通りに受け取ればいいんだよ」
 アスランはシンが落としたナットとコードを拾い、ナットにコードを通し直した。シンの前で揺らす。

「シンは俺を、好きにな〜る〜。……かかったか?」
 アスランはにっこりと、確信犯的な笑みを浮かべた。
「そんなの、俺だって、かかってるのか、かかってないのか、わかりませんよ!」
 シンは照れ隠しに、怒鳴るように言って、アスランの手をつかんだ。

「まだ、続きがあるんだけど、聞くか?」
「なんですか?」
「シンは俺を抱きしめたくなる」

 シンは、アスランを抱きしめた。
 催眠なんて、きいてない。でも、そんなことを言われたら、こうするしかなかった。


 END

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