短編小説

□9月1日幸せな誕生日
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 夕方、食堂でささやかなシンの誕生日パーティーが催された。シンが用意されたケーキを食べていると、アスランがそばに来て、「シン、後で、俺の部屋に来てくれ」とささやいた。
 アスランの私室に招かれたのは初めてで、ドキドキしてケーキの味なんてわからなくなってしまった。


 アスランの部屋に向かいながら、シンは1週間前の会話を思い出していた。
「俺、もうすぐ誕生日なんです。9月1日。あんたとの年の差、1つだけになるんですからね!」「誕生日、か。プレゼント用意しなくちゃな」「え……いいですよ、プレゼントなんて」「いや、せっかくだから、何かあげるよ。楽しみにしててくれ」「……わかりました」
 プレゼント……何をくれるんだろう。わざわざ部屋に呼ぶなんて。ま、まさか、「シン……俺をア・ゲ・ル」なんていうおいしい展開!?いや、まさかあの人がそんな……。


「アスランさん……シンです」
 部屋に着いて来訪を告げるとロックが解除された。部屋に入ると、いつも通りきちんと軍服を着たアスランが目の前にいる。バスローブ姿で俺を待ってたらどうしよう〜などと期待していたが、そんなはずはなかった。
「シン……俺をぶってくれ」
 いきなりそう言って、アスランは目を閉じた。
「え、ええっ!?なんで!?」
「プレゼント……用意するの忘れたんだ。あげるって約束してたのに。いや、プレゼントどころか、誕生日自体、忘れてたんだ。すまない」


 シンのためにマイクロユニットを作ろう、赤目の黒いハロにしようかな、犬型のオリジナルのやつにしようかな、などとアスランが考えたのは1週間前のこと。
 しかしフェイスとして、MSのプログラミングの改良に協力してほしい、という上からの依頼があって、その仕事に集中するあまり、プレゼントを作るのを忘れてしまった。それどころか、誕生日自体を忘れてしまって、今日パーティーの最中に思い出した。申し訳なさすぎる。
 アスランは自己嫌悪に陥っていた。


「ぶってって、言われても……」
「罰してもらわないと、俺の気がすまないんだ」
 目をぎゅっと閉じているアスラン。まつげ、長いな。
 かわいい……!
 唇……形いいな。触れたら、やわらかそう……。
 うわっ!やばい!キスしたいんですけど!!

「シン……?」
 ぶとうとしないシンにじれて、アスランが目を閉じたまま小首を傾げた。
 なんだ、そのしぐさは……かわいすぎるんだよ、あんたぁぁぁ!
 湧き上がった衝動に負けて、シンはアスランの両肩をがしっとつかむと、自分の顔をアスランに近づけていく。あともう少しで触れる、というところで、アスランがぱちっと目を開き、シンは硬直した。
 間近にある、緑の瞳。
「シン……」
「あ、あの、ええと……」
「頭突きするなら、予告してからにしてくれないか。頬に衝撃がくると思ってて、額にガツンってやられたら、きついと思う……。いや、罰なんだからきつくてもいいんだけど、俺が脳震盪で倒れたりしたら困るのはお前だろうし……」
「頭突きって……なに言ってんですか、あんた!」
「え?今しようとしてたじゃないか……」
「俺がしようとしてたのは、キスだー!」
 アスランのまぬけっぷりに、思わずシンは言ってしまった。

「キスぅぅぅ?」
 驚いたアスランが、普段からは想像できないくらい、すっとんきょうな声をあげた。
 シンが俺にキス。なんで?罰だから……あ、嫌がらせか。男が男にキスすることによって、精神的にダメージを与えようという……。ダメージ……受けるだろうか。
 アスランはシンにキスされる自分を想像してみた。
「シン……それはダメだ」
「ですよね……」
 拒絶されて、シンはショックを受けた。
「それじゃ罰にはならない」
「は?」
「俺はシンにキスされても嫌じゃないから、罰にならない。だからダメだ」
「えええ?」
 うわぁ、なんなんだ、この人ぉぉぉ。天然か。天然なのか。なんかすごいこと言ってるんですけど。
「俺なんかにキスしても、ダメージを受けるのはむしろお前だと思う。そんな捨て身の攻撃はやめておけ」
「俺もダメージなんか受けませんよ!」
「え、そうなのか……?」
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